「老後2,000万円問題」って、本当に全員に必要? 40代が「国民年金+週3労働+倹約」で試算してみた。

40代、急に「老後」がリアルになってきた

こんにちは。40代も半ばに差し掛くと、これまでどこか他人事だった「老後」という言葉が、急にリアルな手触りを持って迫ってくるのを感じます。

友人たちとの会話でも、健康診断の結果や親の介護の話と並んで、必ずと言っていいほど話題に上るのが「お金」の話。

そして、その中心にいつも鎮座しているのが、あの有名な**「老後2,000万円問題」**です。

聞くたびに、胸のあたりがザワザワするこの言葉。「本当にそんなに必要なの?」「もし用意できなかったらどうなるの?」と、漠然とした不安だけが募っていきます。

先日、同じく40代の知人とそんな話になりました。 「でもさ、あの2,000万円って、全員に必要なわけじゃないよな?」 「だよな。例えば、国民年金だけでも、退職後も週3くらいで働いて、今みたいにバカみたいにお金を使わなければ(笑)、案外やっていけるんじゃないか?」

そんな仮説が飛び出しました。

「国民年金(満額)+週3の稼働収入+倹約」

この組み合わせで、本当に老後の生活は成り立つのか? 漠然と不安がっていても仕方がない。そう思い立ち、この仮説が成り立つのかどうか、公表されているデータを基に「ファクトチェック」してみることにしました。

今日は、40代の私たちが「老後2,000万円問題」という“巨大な敵”を解体し、自分ごととしてリアルに試算してみた結果を、皆さんと共有したいと思います。


意外と知らない。「老後2,000万円問題」の正体

まず、私たちが漠然と恐れている「2,000万円」という数字の根拠を、改めて確認するところから始めました。

この数字が登場したのは、2019年に金融庁が公表した報告書です。 ポイントは、この試算が**「高齢夫婦無職世帯」「平均的な家計」**をモデルにしている点です。

その内容は、以下のようなものでした。

  • 平均的な実収入(年金など): 約20.9万円(月)
  • 平均的な実支出(消費支出など): 約26.4万円(月)
  • 結果: 毎月約5.5万円の赤字が発生する。

この「月5.5万円の赤字」が、もし老後30年間(65歳〜95歳)続くと仮定すると…

5.5万円 × 12ヶ月 × 30年 = 1,980万円

これが、「老後2,000万円問題」の正体です。

この事実を知って、知人と私は「なんだ、そういうことか」と少し安堵しました。 なぜなら、これはあくまで「平均値」だからです。

「平均支出が26.4万円」と言われても、持ち家の人と賃貸の人、都会暮らしと地方暮らし、趣味にお金を使う人 とそうでない人、その内訳は千差万別なはずです。

私たちを縛り付けていた「2,000万円」という数字は、**「ある特定のモデルケースにおける、30年間の赤字の合計額」**でしかなかったのです。

それならば、「平均」という曖昧なものさしではなく、「自分」のものさしで測り直す必要があります。 私たちはまず、「収入」と「支出」を、より現実的な、あるいは少し厳しめのラインで設定し直すことにしました。


試算の前提。「国民年金満額」のリアルな収入

老後の収入と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「年金」です。 しかし、これも「平均受給額」という言葉に惑わされがちです。

会社員だったか、自営業だったか。現役時代の収入はいくらだったか。 厚生年金(老齢厚生年金)は、文字通り「人それぞれ」で、計算が非常に複雑です。

そこで、今回の試算では、あえて最もミニマムなケース、つまり**「国民年金(老齢基礎年金)を満額で受給する」**という前提で考えることにしました。 これなら、自営業やフリーランスだった人、あるいは厚生年金の加入期間が短い人にとっても、一つの基準になるはずです。

では、「国民年金を満額」もらうと、いくらになるのでしょうか?

日本年金機構によると、**2024年度(令和6年度)の国民年金(老齢基礎年金)の満額(68歳以下)**は、

  • 月額 68,000円
  • 年額 816,000円

です。

正直、「え、これだけ?」と思った方もいるかもしれません。 夫婦二人(二人とも満額)なら月13.6万円になりますが、今回は「単身世帯」をモデルに、この**「月6.8万円」**を老後のベース収入として設定します。

この時点で、前述の「平均的な単身世帯の支出(後述)」と比べると、絶望的な赤字が見えてきます。 しかし、今回の試算はここからが本番です。


検証① 「倹約」で支出を平均以下に抑える

次に「支出」です。 2,000万円問題の根拠となった「平均支出」も、当然ながら見直す必要があります。

総務省の「家計調査(2023年)」によると、65歳以上の単身無職世帯平均的な消費支出は、

  • 月額 143,139円

だそうです。(※住居費などが平均より低い「持ち家」世帯が多いため、賃貸の人はさらに上がる可能性があります)

さて、この「平均支出14.3万円」と、先ほどの「国民年金収入6.8万円」を比べてみましょう。

14.3万円(支出) ー 6.8万円(収入) = 月7.5万円の不足

何も対策をしなければ、月7.5万円、年間90万円の赤字が確定します。 これでは2,000万円とは言わずとも、30年で2,700万円もの貯蓄が必要になってしまいます。

ここで、私たちの仮説の一つ目**「倹約」**の登場です。

「平均支出が14.3万円」というのは、あくまで平均です。 裏を返せば、これより多く使っている人もいれば、少なく抑えている人もいる、ということです。

40代の私たちが、今から「倹約」を習慣化し、老後も「平均以下の支出」で暮らすことは、果たして不可能でしょうか?

例えば、

  • 格安SIMの利用を徹底する(通信費の削減)
  • 不要なサブスクリプションは契約しない
  • 外食を減らし、自炊中心の健康的な食生活を心がける(食費・医療費の削減)
  • 見栄のための消費(高価な服飾品、新車など)はやめる

こうした「倹約」を、我慢ではなく「習慣」として身につける。 そうして、あの「平均14.3万円」を、何とか**「月13万円」**(平均より約1.3万円減)に抑えることを目標に設定します。

「月13万円」でも、まだ余裕のある暮らしとは言えないかもしれません。 しかし、この目標設定により、先ほどの赤字額は変わってきます。

【倹約後のシミュレーション①】

  • 支出: 月13万円
  • 収入: 月6.8万円(国民年金)
  • 不足額: 月6.2万円

赤字は赤字ですが、さっきの「7.5万円」よりは、少し現実的な数字になってきました。 この「月6.2万円」の穴を、次の仮説で埋めにいきます。


検証② 「週3日」の労働が老後を劇的に変える

月6.2万円の不足。 これを貯蓄の取り崩しだけで賄おうとすると、

6.2万円 × 12ヶ月 × 30年 = 2,232万円

ほら、また「2,000万円問題」が顔を出しました。 やはり、国民年金と倹約だけでは厳しいのが現実です。

ここで、私たちの仮説の二つ目**「週3日の稼働収入」**の出番です。

この仮説を立てた時、知人はこうも言いました。 「そもそもさ、もし貯金が本当にゼロで、年金収入だけじゃ足りないって分かってる人が、“不安だ、不安だ”って言いながら、健康なのに全く働かないってこと、あるのかな?」

確かに、その通りかもしれません。 病気や介護など、やむを得ない事情は別として、「老後破綻が怖い」と不安がる人が、収入を増やす努力を全くしない(=働かない)という前提は、少し非現実的かもしれません。

65歳でキッパリ仕事を辞めるのではなく、体力的に無理のない範囲で「週3日」程度、働き続ける。 幸い、現代はシニアの労働力が見直されており、多様な働き方が増えています。

では、「週3日」働くと、いくら稼げるのでしょうか? これも、現実的なラインで試算してみます。

  • 時給: 1,100円(※地域や職種によりますが、最低賃金より少し上、シニア向け求人の平均等を参考に仮設定)
  • 労働時間: 1日5時間(午前中だけ、午後だけ、など無理のない範囲)
  • 労働日数: 週3日(月12日)

この条件で計算してみます。

時給1,100円 × 1日5時間 × 月12日 = 月額 66,000円

月額6.6万円。年額にすると約79万円です。 この「月6.6万円」という収入が、私たちの老後にどれほどのインパクトを与えるか、もうお分かりですね。


結論。「国民年金+週3労働+倹約」は、老後問題を解決し得る

全てのピースが揃いました。 「国民年金のみ(単身)」という厳しい条件でスタートした私たちのシミュレーションの結果を見てみましょう。

【最終シミュレーション(単身・国民年金満額)】

<支出>

  • 月 130,000円 (平均より1.3万円ほど「倹約」した生活費)

<収入>

  • 国民年金(満額): 68,000円
  • 稼働収入(週3日): 66,000円
  • 収入合計: 月 134,000円

<収支>

  • 134,000円(収入) ー 130,000円(支出) = 月 +4,000円

なんと、黒字です。

これは「2,000万円問題」が嘘だった、と言いたいわけではありません。 これはあくまで、「貯蓄ゼロ」でスタートした場合の、ギリギリのシミュレーションです。

しかし、考えてみてください。 これは「貯蓄ゼロ」でも成り立つ計算なのです。 もし、このベースラインに、たとえ10万円でも、20万円でも「貯金」という名のバッファがあったら、どうでしょうか?

急な家電の買い替えや、少し高額な医療費に対応できる「お守り」がある。 その事実だけで、心の余裕、つまり「不安の減り方」は、金額の何倍も大きいのではないでしょうか。2,000万円という途方もない額を目指すのではなく、「まずは10万円のバッファを作る」という目標なら、ずっと現実的に感じられます。

そして、この試算は私たちにもう一つの「希望」を与えてくれました。

まず、**「年金は、やはり大事だ」ということです。 今回の試算で、ギリギリとはいえ黒字を達成できた「土台」は、紛れもなく月6.8万円の「国民年金」**でした。 「どうせ、もらえない」「払っても無駄」という声も聞きますが、この「死ぬまで確実にもらえる終身収入」が老後の生活設計の根幹であることは間違いありません。このベースがあるからこそ、「あといくら必要か」という計算が立つのです。

そして次に、**「働くことは、最強の不安解消策だ」**ということです。 「老後2,000万円」という、途方もなく巨大で、漠然とした不安の塊。 それに怯え、思考停止するしかなかった私たち。

それが、この試算を通じて、 「月数万円の不足を、いかにして埋めるか」 という、具体的で、対処可能な「課題」に変わったのです。


40代の私たちが、今からできること

今回の試算は、「国民年金のみ」という、かなり厳しい設定で行いました。 もし、皆さんが厚生年金に加入しているのであれば、ベースとなる年金収入はもっと増えるはずです。 (※標準的な厚生年金+国民年金の場合、夫婦2人世帯で月23万円程度、単身でも月14万円程度が「平均」とされています)

もしそうなれば、「週3日」ではなく「週1日」の労働で済むかもしれませんし、「倹約」しなくても黒字になるかもしれません。

このファクトチェックを終えて、40代の私たちが「今から」できることは、非常に明確になりました。

1. 「倹約」の習慣化と「自分サイズ」の支出の把握 「平均」に惑わされず、自分にとって快適な「低コスト生活」のレベルを今のうちから見極め、習慣化すること。家計簿アプリなどで、自分が何にいくら使っているか把握するだけでも、大きな一歩です。

2. 「長く・楽しく」働ける健康とスキル 今回の試算のキモは「稼働収入」でした。 知人と話していたのですが、この「週3日・1日5時間」という働き方は、現役時代の「週5日・1日8時間・満員電車」に比べたら、**労働時間もプレッシャーも「半分以下」**に感じられませんか? 「会社員時代の半分でいい」と思えば、気分もずっと楽になります。 65歳を過ぎても「週3日なら、喜んで」と社会に関わり続けられる健康な身体と、時代遅れにならない柔軟な思考・スキルを維持すること。これが最大の資産になります。

3. 「掛け捨ての低額保険」で突発的な支出に備える 今回の試算で無視した「高額な医療費」や「介護費用」。これらは、一発で家計を破綻させかねない最大のリスクです。 大きな貯蓄や資産形成(NISAなど)が難しいと感じる人でも、**「月数千円の、掛け捨ての医療保険やがん保険」**に加入しておくことは、非常に現実的なリスクヘッジになります。 すべてを貯蓄で賄おうとせず、「起こる確率は低いが、起こったら大打撃」というリスクは、低額の保険でカバーする。これも、老後のキャッシュフローを守る立派な戦略です。

4. 「上乗せ」の資産形成(NISAなど) ベースの生活は「年金+労働」で賄い、突発的なリスクは「保険」で備える。 この土台が整えば、NISAなどを活用した資産形成は、「2,000万円」という恐怖から逃れるためではなく、**「老後のゆとり(旅行、趣味、孫へのお小遣い)」を上乗せするための、前向きな「お守り」**として取り組めるはずです。

「老後2,000万円問題」は、私たちに不安を与えたと同時に、40代という早い段階から「自分ごと」としてお金や働き方を考える、素晴らしいきっかけをくれたのかもしれません。

あなたも一度、「自分ならどうなるか?」と、試算してみてはいかがでしょうか。


試算を終えて。不安が減った今、思うこと

さて、ここまで知人と行った「最低限シミュレーション」の結果を共有してきました。 これを書き終えて、今、私が率直に感じていること。それは、

「ああ、気分がすごく楽になったな」

という、純粋な安堵感です。

なぜなら、「2,000万円」という正体不明の巨大な不安が、「倹約と週3労働で対処可能」という、現実的な課題に変わったからです。

そして、この「安心感」は、私にある一つの「勇気」を与えてくれました。

それは、**『DIE WITH ZERO(ダイ・ウィズ・ゼロ)』という本が提唱するような、「今しかできない経験にお金を使うこと」への不安を、持たなくても良いのではないか?**という感覚です。

『DIE WITH ZERO』は、端的に言えば「お金を墓場まで持っていくな。思い出や経験に使い切って死のう」という、少し刺激的なメッセージです。

これまでの私は、「老後が不安だから」という呪縛に囚われ、旅行や学び、人との交流といった「今しかできない経験」にお金を使うことに、どこか罪悪感や不安を覚えていました。

しかし、今回の試算で、 「最悪でも、国民年金と週3労働で、生活の土台は作れる」 というラインが見えた(もちろん、健康が前提ですが)。

そう分かった瞬間、**「じゃあ、老後の最低限の生活費“以外”のお金は、もっと自由に“今”使ってもいいんじゃないか?」**と、目の前が明るくなるのを感じたのです。

このシミュレーションは、「老後のために、今を犠牲にしろ」という結論ではありません。 むしろ逆です。 「老後の最低限のライン」を具体的に知ることで、安心して「今を生きる」ためのお金とエネルギーを確保する。

「2,000万円」に怯えて「今」を我慢するのではなく、 「月6万円」稼ぎ続けるスキルと健康を維持することで、「今」も「老後」も楽しむ。

40代の私にとって、この考え方の転換こそが、今回のファクトチェックで得られた最大の収穫だったのかもしれません。


【免責事項】

本記事は、公表されている各種データに基づき、筆者が独自に行った試算と見解をまとめたものです。特定の金融商品(保険・NISA等)、投資行動、またはライフプランを推奨・保証するものではありません。 年金額や平均支出、法律、税制などは将来変更される可能性があります。 老後の資産形成やライフプランニングに関する最終的な決定は、専門家の意見も参考にした上で、ご自身の責任と判断において行ってください。

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