「見て見ぬフリ」していませんか? 我が家の家計を圧迫していた“聖域”の正体
「パパ、今日の塾のお迎え、お願いね!」 「わかった。帰りにスーパーで牛乳も買ってくるよ」
妻とのそんな何気ない会話が、我が家の日常でした。小学生の子供が2人。週末は近所のショッピングモールへ出かけ、夏休みには少し遠くのキャンプ場へ。その中心には、いつも7人乗りのミニバンがありました。
住宅ローン、上がり続ける光熱費、そしてこれから本格化する子供たちの教育費。家計簿とにらめっこしながら、スマホを格安SIMに変え、保険を見直し、妻はパートの時間を少しだけ増やしてくれました。やれることはやっている。そう、自分に言い聞かせていたのです。あの日までは。
ある土曜の夜、ふと開いたネットバンクの明細を見て、僕は愕然としました。自動車保険の年会費、約8万円。その数週間前には、自動車税の支払いで4万円近くが引き落とされていました。駐車場代は毎月1万5千円。ガソリン代も高騰し、気づけば月に2万円を超えることも珍しくありません。
「待てよ…もしかして、うちの家計で一番の“聖域”って、この車なんじゃないか?」
その瞬間、長年見て見ぬフリをしてきたパンドラの箱を、僕は開けてしまったのです。
この記事は、40代のどこにでもいる父親である僕が、長年連れ添った愛車の「本当のコスト」を直視し、悩み抜いた末に手放すことを決断。そして「カーシェア」という新しい選択によって、年間50万円以上の固定費削減と、予想もしなかった心の豊かさを手に入れるまでの全記録です。
もしあなたが、僕と同じように「車の維持費って、なんだかんだ高いよな…」と漠然と感じているなら、どうかこのまま読み進めてみてください。少し長いですが、あなたの家庭の未来を変えるきっかけが、ここにあるかもしれません。
【第1章】衝撃の年間53万円! 我が家の自家用車(ミニバン)維持費の内訳を全公開
決心した僕はまず、これまでどんぶり勘定だった愛車(国産ミニバン・排気量2000cc・新車で購入して6年目)の年間維持費を、1円単位で洗い出すことにしました。その結果がこちらです。正直、計算しながら手が震えました。
【我が家のミニバン 年間維持費(実測値)】
- ①自動車税: 39,500円
- ②自動車重量税: 16,400円(※車検時に2年分32,800円を支払い÷2)
- ③自賠責保険料: 10,005円(※車検時に24ヶ月分20,010円を支払い÷2)
- ④任意保険料: 82,000円(車両保険あり・ゴールド免許)
- ⑤駐車場代: 180,000円(月額15,000円 × 12ヶ月)
- ⑥ガソリン代: 192,000円(月平均16,000円 × 12ヶ月)
- ⑦車検費用: 50,000円(法定費用以外。2年に1回10万円かかったとして÷2)
- ⑧メンテナンス費用: 25,000円(オイル、タイヤ、その他消耗品など)
———- 【年間合計】 534,905円
年間、53万4,905円。月平均にすると、約4万4,500円です。
この金額が、毎年、僕がハンドルを握ろうが握るまいが、口座から静かに消えていっていたのです。これに加えて、車両本体のローンはすでに終わっていましたが、もしローンが残っていたら…と考えると、さらに恐ろしくなります。
この数字を前に、僕は妻に言いました。「このお金があれば、毎年家族で沖縄旅行に行けるよな…」。妻は黙って頷いていました。
さあ、次はあなたの番です。下のチェックリストで、ご自身の車の維持費をざっくりと計算してみてください。現実を直視することが、改革の第一歩です。
- □ 自動車税(年に1回)
- □ 任意保険料(年に1回)
- □ 駐車場代(月額 × 12)
- □ ガソリン代(月平均 × 12)
- □ 車検費用(2で割る)
いかがでしたか? 想像していた金額より、高かったでしょうか、安かったでしょうか。
【第2章】「本当に便利なの?」カーシェア&カーリース メリット・デメリットを正直に解説
「車を手放す」という選択肢が現実味を帯びてきた我が家。しかし、車がなければ生活が成り立たない場面も確かにあります。そこで僕が調べ始めたのが、「所有しない」という選択肢、つまり「カーシェア」と「カーリース」でした。
カーシェアとは?
街中のコインパーキングなどで見かける、あのロゴが入った車です。会員登録さえすれば、スマホ一つで24時間365日、15分単位といった短時間から車を借りられるサービスです。
- 仕組み: 月額基本料(無料の会社も多い)+ 利用した分の時間料金 + 距離料金
- メリット:
- 税金、保険、駐車場、ガソリン代、メンテナンス費がすべて月額料金や利用料金に含まれており、維持費がゼロ。
- スマホで予約すれば、すぐに使える手軽さ。
- 短時間の利用(買い物、送迎など)なら圧倒的に安い。
- デメリット:
- 使いたい時に、近くのステーションの車が予約で埋まっている可能性がある。
- 長距離・長時間の利用は、レンタカーより割高になる場合がある。
- 返却は原則、借りた場所に戻さなければならない。
カーリースとは?
一言で言えば「車のサブスクリプション」。月々定額の料金を支払うことで、自分専用の新車に長期間(3年、5年など)乗ることができるサービスです。
- 仕組み: 月々定額のリース料金
- メリット:
- 頭金不要で新車に乗れる。
- 税金や諸費用が月額料金に含まれているため、急な出費がない。
- 「わ」ナンバーではない、自分だけの車として使える。
- デメリット:
- 原則、中途解約ができない(または高額な違約金がかかる)。
- 走行距離に制限が設けられていることが多い。
- あくまで「借り物」なので、カスタマイズや改造はできない。
我が家の場合、車の利用は週末の買い物やたまのレジャーが中心。平日の利用はほとんどありませんでした。この使い方を考えると、月々定額を払うカーリースよりも、使った分だけ支払うカーシェアの方がライフスタイルに合っているのではないか、という結論に至りました。
【第3章】ついに決着!ライフスタイル別「年間コスト」徹底比較シミュレーション
では、実際にライフスタイルによって、どの選択が最も経済的なのでしょうか。我が家のケースも踏まえ、3つのモデルファミリーを設定して年間のコストをシミュレーションしてみました。
【シミュレーションの前提条件】
- 自家用車: 第1章の年間維持費
534,905円
を基準とする。 - カーシェア: 大手カーシェアサービスを想定(月額基本料約1,000円、時間料金15分220円、6時間パック4,290円など)。ガソリン代・保険料込み。
- カーリース: 人気ミニバンの新車を5年契約した場合を想定(月額50,000円)。駐車場代・ガソリン代は別途自己負担。
ケース1:「週末ドライバー」Bさんファミリー (利用シーン:毎週土曜に6時間、買い物や公園へのお出かけに利用)
- 自家用車:
534,905円
- カーシェア:
- 利用料:4,290円/回 × 52週 = 223,080円
- 月額基本料:1,000円 × 12ヶ月 = 12,000円
- 合計:
235,080円
- カーリース:
- リース料:50,000円 × 12ヶ月 = 600,000円
- 別途、駐車場代・ガソリン代がかかるため、さらに高額に。
【結果】このケースではカーシェアが圧勝。自家用車と比べて年間約30万円もお得に!
ケース2:「毎日送迎ドライバー」Cさんファミリー (利用シーン:平日に毎日1時間、子供の塾や習い事の送迎に利用)
- 自家用車:
534,905円
- カーシェア:
- 利用料:(220円/15分 × 4) × 5日 × 52週 = 228,800円
- 月額基本料:1,000円 × 12ヶ月 = 12,000円
- 合計:
240,800円
- カーリース: ケース1と同様。
【結果】毎日乗る場合でも、短時間ならカーシェアに軍配。年間約29万円の節約!
ケース3:「長距離キャンパー」Dさんファミリー (利用シーン:月に2回、金曜夜〜日曜夜までの48時間、長距離キャンプに利用)
- 自家用車:
534,905円
- カーシェア: 長時間パックを組み合わせても、この乗り方ではレンタカーの方が安くなる可能性が高く、コストメリットが出しにくい。
- カーリース: 自分の車として気兼ねなく使えるため、このケースでは有力な選択肢。
【結果】長距離・長時間の利用がメインの場合は、自家用車やカーリースに分がある。
利用スタイル | 自家用車 | カーシェア | カーリース | 最適な選択 |
週末ドライバー | 約53万円 | 約24万円 | 約60万円+α | カーシェア |
毎日送迎ドライバー | 約53万円 | 約24万円 | 約60万円+α | カーシェア |
長距離キャンパー | 約53万円 | 割高 | 約60万円+α | 自家用車 |
このシミュレーション結果は、僕の背中を強く押してくれました。我が家は完全に「ケース1:週末ドライバー」だったからです。年間30万円。この差は、無視できる金額ではありませんでした。
【第4章】体験談|さよなら、愛しのミニバン。僕が「カーシェア生活」を選んで手に入れたもの
データは出揃いました。しかし、頭では分かっていても、決断は簡単ではありませんでした。子供たちの成長をずっと見守ってくれた、家族の一員のようなミニバンです。
「本当に大丈夫?急に熱が出たり、災害があったりしたらどうするの?」
妻の不安はもっともでした。僕たち夫婦は、何度も話し合いました。そして、不安を一つずつ潰していくことにしたのです。
- 救急時: 迷わずタクシーを呼ぶ。その方が早いし確実。年間数回のタクシー代は、維持費に比べれば微々たるもの。
- 大きな買い物: ネットスーパーや通販を最大限活用する。家具などは配送サービスを使えばいい。
- 災害時: 我が家の地域では、車がなければ避難できない、という場所ではないことをハザードマップで再確認。
そしてついに、僕たちは愛車を手放すことを決断しました。最後の日、家族みんなで車内をピカピカに掃除し、感謝を伝えて見送った光景は、今でも忘れられません。
初めてカーシェアを使ったのは、その翌週の土曜日でした。スマホで近所のステーションを検索し、5分ほど歩いた場所にあるコンパクトカーを予約。スマホが車のキー代わりになることに感動しながら、乗り込みました。
「うわ、新しい車の匂いがする!」 「パパ、いつもの車より小さいけど、なんか楽しいね!」
子供たちは大はしゃぎです。乗り心地もスムーズで、運転に何の問題もありません。6時間たっぷり使って、買い物と大きな公園へ行き、返却。スマホに届いた利用料金は、4,500円ほど。これまで毎週当たり前にかかっていたガソリン代や、目に見えない維持費の重圧から解放された瞬間でした。
もちろん、良いことばかりではありません。一度だけ、使いたい週末に近所の車がすべて予約で埋まっていて、少し遠くのステーションまで歩いたこともありました。でも、それもご愛嬌。事前に計画を立てて予約する習慣がつきました。
【第5章】「車なし生活」は、本当に豊かだったのか? 1年後の答え合わせ
ミニバンを手放してから、1年が経ちました。結論から言えば、**「我が家の生活は、間違いなく豊かになった」**と断言できます。
まず、家計。 あの衝撃の年間維持費534,905円が、カーシェア利用料の合計約24万円に変わりました。差し引き、年間で約30万円のプラスです。このインパクトは絶大でした。
次に、生活と価値観の変化。 僕たちが手に入れたのは、お金だけではありませんでした。
- 家族旅行という新しい習慣: 浮いた30万円を原資に、今年の夏休み、僕たちは初めて家族で沖縄へ行きました。レンタカーを借りて、美ら海水族館へ。ミニバンを手放さなければ、この旅行は実現しなかったでしょう。
- 夫婦の会話の変化: これまでは「次の車検、いくらかな…」というお金の心配事が、今では「次の休み、カーシェアでどこ行く?」という前向きな計画の相談に変わりました。
- 健康的なおまけ: カーシェアのステーションまで歩くことが、ちょうどいい運動になっています。子供たちと話しながら歩く5分、10分が、今では大切なコミュニケーションの時間です。
車を所有することが当たり前だと思っていた頃は、その維持費や手間という「重り」を、無意識に背負っていたのだと今なら分かります。その重りから解放された今、僕たちの心は、驚くほど軽やかなのです。
【まとめ】あなたの家庭の“聖域”はなんですか? まずは「知る」ことから始めよう
ここまで、僕の個人的な体験を長々と語らせていただきました。 もちろん、この記事はすべての家庭に「車を手放すべきだ」と主張するものでは決してありません。お住まいの地域や家族構成、ライフスタイルによっては、車が絶対に必要だというご家庭も多いでしょう。
僕が本当に伝えたかったのは、たった一つです。
「まずは、あなたの家庭の現状を“正しく知る”ことから始めてみませんか?」
ということ。
僕にとっての“聖域”は、車の維持費でした。あなたにとっては、それは通信費かもしれませんし、保険料かもしれません。何となく支払っているその固定費、一度メスを入れてみませんか?
この記事が、あなたの家庭の家計を見直す、小さな、しかし確かな一歩につながれば、これほど嬉しいことはありません。
【次の一歩のためのアクションプラン】
- まずは計算!: この記事の第1章を参考に、あなたの愛車の年間維持費を計算してみましょう。
- そして検索!: 「タイムズカーシェア」「カレコ」などで、あなたの家の近くにステーションがいくつあるか調べてみましょう。意外なほど近くにあるかもしれません。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。