
「ペット保険って、なんだかんだで掛け捨てだし、ちょっと高いかな…」
大切な愛犬や愛猫を家族として迎えた方なら、一度は頭をよぎる悩みではないでしょうか。何を隠そう、私自身もそうでした。毎月数千円の出費は決して小さくありません。「うちの子はまだ若いし、病気なんてしないだろう」と、どこか楽観的に考えていたのです。
先日、同年代の知人(40代)と話すまでは。
彼の愛犬がガンになり、手術と治療でかかった費用は総額82万円。その話を聞いた時、私は血の気が引く思いでした。これは、決して他人事ではない。今日は、彼のリアルな体験談を交えながら、多くの飼い主さんが直面する「ペット保険、入るべきか」という問いに、真正面から向き合ってみたいと思います。
【データで見る現実】ペットの生涯治療費、想像できますか?
まず、感情論の前に、客観的なデータを見てみましょう。ペット保険大手のアニコム損害保険株式会社が発表している「家庭どうぶつ白書2023」によると、犬にかかる年間支出総額は平均で約35万円、猫は約17万円となっています。
これはフードや日用品も含めた金額ですが、注目すべきは「病気やケガの治療費」。年齢が上がるにつれてこの費用は増加傾向にあり、特に7歳を超えたシニア期からは、大きな病気のリスクが格段に上がります。
生涯という長い目で見るとどうでしょう。犬の平均寿命を14歳と仮定すると、生涯でかかる費用は単純計算で約500万円。もちろん個体差はありますが、このうちの相当な部分を治療費が占める可能性があるのです。
特に、遺伝的に特定の病気にかかりやすい犬種もいます。
- ダックスフント:椎間板ヘルニア
- ゴールデン・レトリバー:股関節形成不全、悪性腫瘍
- フレンチ・ブルドッグ:皮膚疾患、短頭種気道症候群
「うちの子は大丈夫」という保証は、どこにもありません。これが、まず私たちが直視すべき現実です。
天秤のもう片方。ペット保険の保険料は、一体いくら?
では、その「万が一」に備えるための保険料は、一体いくらなのでしょうか。これもペットの年齢や種類、そして「治療費の何%を補償してくれるか」というプランによって大きく変わります。
【月額保険料の目安(補償割合70%プランの場合)】
年齢 | 小型犬(トイプードル等) | 中型犬(柴犬等) | 大型犬(ゴールデン等) | 猫 |
0歳 | 約2,500円 | 約3,000円 | 約4,000円 | 約2,000円 |
3歳 | 約2,800円 | 約3,500円 | 約4,800円 | 約2,400円 |
7歳 | 約4,000円 | 約5,000円 | 約6,500円 | 約3,800円 |
10歳 | 約5,500円 | 約7,000円 | 約9,000円 | 約5,500円 |
※上記はあくまで目安です。
仮に、7歳の大型犬が月額6,500円の保険に加入した場合、年間で78,000円。もし15歳まで加入し続けたとすると、8年間で支払う保険料は60万円以上になります。
「やっぱり高いな…」そう思う気持ちも、よく分かります。しかし、次の話を聞いて、あなたはどう感じるでしょうか。
【40代知人の実録】愛犬のガン手術、請求額は82万円。天国と地獄を分けたもの
冒頭でお話しした、私の40代の知人。彼の家族は、8歳になるゴールデン・レトリバーの「レオ君」です。いつも元気で、病気らしい病気をしたことがなかったレオ君。ある日、体に小さなしこりを見つけたのが始まりでした。
「ただの脂肪の塊だろう」 そう高を括っていたそうですが、念のため病院へ。獣医師から告げられた診断は**「悪性リンパ腫」**、つまりガンでした。
「頭が、真っ白になりました。信じられなくて、何度も先生に聞き返しました」
治療方針は、外科手術による腫瘍の摘出と、その後の抗がん剤治療。知人は迷わず、レオ君が助かる可能性が一番高い道を選びました。しかし、彼を待っていたのは、過酷な闘病生活と、もう一つの厳しい現実でした。
▼実際に彼が支払った治療費の内訳
- 精密検査費用(CT、生検など):約15万円
- 外科手術費用(入院費含む):約45万円
- 抗がん剤治療(1クール):約20万円
- その他通院・薬代など:約2万円
- 合計:82万円
幸い、手術は成功し、レオ君は今も元気に過ごしているそうです。しかし、知人はこう漏らしました。
「治療費の明細を見るたびに、正直、通帳の残高が頭をよぎったんです。もちろん、レオのためならいくらでも出すつもりでした。でも、心のどこかで『この治療で本当にいいのか』『もっと安い方法はなかったのか』と考えてしまう自分がいて…。お金の心配をしながら、レオの治療に100%向き合ってあげられなかったことが、何より辛かった」
もし、彼がペット保険に入っていたら? 仮に、月額6,500円の**「補償割合70%」**のプランに加入していたとしましょう。
- 自己負担額:82万円 × 30% = 24万6,000円
- 保険からの給付額:82万円 × 70% = 57万4,000円
自己負担額は、約4分の1以下になります。何より大きいのは、経済的な負担が減ることで得られる**「精神的な余裕」**だっただろう、と彼は言います。
「お金の心配なく、『先生、レオにとって一番良い治療をお願いします』と、心から言えたはず。その差は、本当に大きいですよ」
冷静に考える。ペット保険の光と影
彼の話を聞いて、感情的に「絶対入るべきだ!」と思うのは簡単です。しかし、物事には必ず光と影があります。ここで一度、冷静にペット保険のメリット・デメリットを整理してみましょう。
【メリット(光)】
- 高額な治療費に備えられる:万が一の時、経済的な理由で治療を諦めるという最悪の事態を避けられる。
- 治療の選択肢が広がる:躊躇なく、高度な医療や最善の治療法を選択できる。
- 精神的な安心感:何かが起きても大丈夫、という「お守り」になり、日々の暮らしに安心感をもたらす。
【デメリット(影)】
- 健康なら掛け捨てになる:生涯大きな病気をしなければ、支払った保険料は戻ってこない。
- 保険適用外の項目がある:ワクチンなどの予防医療、去勢・避妊手術、歯科治療の一部、遺伝性疾患などは対象外の場合が多い。
- 年齢と共に保険料が上がる:シニア期になると保険料は高騰し、そもそも新規加入や更新ができない場合もある。
「ペット貯金」という、もう一つの選択肢
では、保険に入らないという選択は「悪」なのでしょうか?そんなことはありません。保険の代わりに**「ペット貯金」**という方法で備えている方もたくさんいます。
これは、毎月決まった額(例えば5,000円~1万円)を、ペットの治療費専用の口座に貯金していく方法です。
【ペット貯金のメリット】
- 使わなければ、お金はそのまま残る。
- 保険適用外の治療にも、もちろん使える。
- 保険会社の商品内容に縛られず、自由度が高い。
【ペット貯金のデメリット】
- 貯金が貯まる前に、高額な治療が必要になるリスクがある。
- 強い意志がないと、つい他の用途に使ってしまいがち。
- 一度に100万円近い出費が出た場合、対応しきれない可能性がある。
【タイプ別診断】あなたはどっち向き?
- 保険向きな人:心配性な方、貯金が少し苦手な方、突発的な大きな出費に備えたい方。
- 貯金向きな人:計画的にお金を管理できる方、ある程度の貯蓄がすでにある方、家計の自己管理に自信がある方。
まとめ:大切な家族のために、今あなたができること
ペット保険に入るか、入らないか。 これは、どちらが絶対的に正しいという問題ではありません。それぞれの家庭の経済状況、飼い主さんの性格、そして何より、ペットの犬種や年齢によって、最適な答えは変わってきます。
しかし、私の知人の話を聞いて確信したことが一つだけあります。 それは、「何も考えず、備えをしない」ことだけが、最大のリスクであり、将来後悔に繋がるということです。
天秤の片方には「月々数千円の保険料」。もう片方には「ある日突然やってくるかもしれない数十万円の治療費」と「その時に後悔しないための精神的な安心感」。
この記事が、あなたと、あなたの隣で安らかな寝息をたてているかもしれない大切な家族の未来について、じっくりと考えるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。まずは一度、保険会社の資料請求をしてみる、あるいは、ペット貯金用の口座を開設してみる。その小さな一歩が、未来のあなたと愛するペットを救うことになるかもしれません。
【免責事項】 本記事は、ペット保険に関する一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の金融商品の勧誘や加入を推奨するものではありません。保険商品の詳細や契約にあたっては、必ずご自身の判断で、各保険会社のウェブサイトや重要事項説明書などをご確認いただきますようお願い申し上げます。記事内の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。