住宅ローンの「変動金利」が0.75%へ。5年・125%ルールの罠と「あえて動かない」選択肢の境界線

私たちの生活の基盤である「家」。その支払いを支える住宅ローンが、今、大きな転換期を迎えています。 日銀の政策転換により、長らく続いた「超低金利時代」が終焉を告げようとしています。ニュースで「政策金利0.75%への引き上げ」という言葉を耳にする機会が増えましたが、これが実際にあなたの毎月の返済や、数十年後の完済計画にどのような影響を与えるのか、正確に把握できているでしょうか。

特に「変動金利」を選択している方にとって、安心材料とされてきた「5年ルール」や「125%ルール」が、実はリスクを先送りにし、将来の自分を苦しめる「罠」になりかねないという現実は、あまり語られていません。

しかし、一方で「慌てて固定金利に借り換える」ことが、必ずしも正解とは限りません。この記事では、40代という人生の折り返し地点に立つ私たちが、知的な知人として共有しておきたい「金利上昇時代のサバイバル術」を、**「動くべきか、あえて動かざるべきか」**という極めて現実的な視点で徹底的に解説します。


日銀の利上げ0.75%が意味すること。私たちの家計に迫る「静かなる危機」

なぜ今、0.75%という数字が騒がれているのか

日本銀行はこれまで、経済を活性化させるために異次元の低金利政策を続けてきました。しかし、世界的なインフレや円安、国内の物価上昇を受けて、いよいよ金利を正常な水準(プラス圏)へと戻す動きを加速させています。

これまで「0.1%」や「0.25%」といった水準で推移していた政策金利が「0.75%」を目指すということは、銀行の調達コストが上がることを意味します。それは巡り巡って、私たちが借りている住宅ローンの「短期プライムレート」に反映され、変動金利の上昇へと直結するのです。

変動金利を選んでいる人の「8割」が直面する現実

現在、新規で住宅ローンを組む人の約7〜8割が変動金利を選択していると言われています。その最大の理由は「金利が圧倒的に低いから」でした。

しかし、その低金利の恩恵を享受してきた裏側で、私たちは「金利上昇のリスク」をすべて背負っています。0.75%への上昇は、これまでの「金利は上がらない」という前提を根本から覆すものです。銀行の窓口では「上がっても少しずつですから」と説明されたかもしれませんが、市場の動きは時として残酷です。


【徹底解説】5年ルールと125%ルールの「甘い罠」

多くの変動金利型ローンには、「5年ルール」と「125%ルール」という激変緩和措置が付帯しています。これらは一見、借り手を守るための優しいルールに見えます。しかし、その実態は「未払利息(みばらいりそく)」という名の時限爆弾を抱えることに他なりません。

5年ルール:支払額が変わらなくても「中身」が変わっている

「5年ルール」とは、金利が上昇しても、5年間は毎月の返済額を据え置くというルールです。家計にとっては「急に支払額が増えないから安心」と思いがちですが、ここが大きな落とし穴です。

返済額の内訳は「元金」と「利息」で構成されています。金利が上がれば、支払額の中に占める「利息」の割合が増え、その分「元金」の減りが遅くなります。最悪の場合、支払額すべてが利息の支払いに充てられ、元金が1円も減らないという状況さえ起こり得るのです。

125%ルール:急激な上昇を抑える仕組みが「未払利息」を生む

「125%ルール」とは、5年ごとの返済額の見直しにおいて、新しい返済額はそれまでの返済額の1.25倍(25%増)までしか上げないというルールです。

しかし、計算上ではもっと高い利息を支払わなければならない場合、その「入り切らなかった利息」は**「未払利息」**として蓄積されます。これは消えてなくなるわけではなく、最終返済時に一括で請求されるか、途中で精算を求められることになります。これが「変動金利の罠」の正体です。


猛毒か、薬か?「借り換え」に伴う重いコストの正体

ここで冷静に考えなければならないのが、**「借り換えにかかる諸費用」**です。金利が上がったからといって、慌てて他の銀行へ飛びつくのが正解とは限りません。

借り換えには「数百万円」かかることもある

借り換えは、単に契約書を書き直す作業ではありません。今の銀行への一括返済と、新しい銀行での新規借り入れを同時に行うため、以下のような多額の費用が発生します。

  1. 融資事務手数料: 借入額の2.2%(税込)が一般的です。3000万円借り換えるなら66万円かかります。
  2. 保証料: 一括払いの場合、数十万円から百万円単位になることもあります。
  3. 抵当権設定費用(登録免許税): 借入額の0.4%程度が必要です。
  4. 司法書士報酬: 登記手続きのために5〜10万円程度かかります。
  5. 印紙代: 数万円程度。

これらを合計すると、借入残高が3000万円の場合、80万円〜120万円程度の「現金」が飛んでいくことになります。この初期投資を、金利低下による返済軽減額で回収できるかどうかが、最大の焦点です。

「あえて変えない」方が得をする3つの条件

専門家の間では、借り換えによってメリットが出る目安として「3つの1」という言葉がありますが、今の金利上昇局面ではよりシビアに見る必要があります。以下の条件に当てはまるなら、「あえて借り換えない」ことが正解である可能性が高いです。

  1. 住宅ローン残高が1,000万円以下: 利息軽減の効果が小さいため、諸費用を回収するのに何年もかかってしまいます。
  2. 残りの返済期間が10年以内: 期間が短いと、金利が多少上がったとしても、元金がすでに減っているため利息の総額自体がそれほど膨らみません。
  3. 現在の金利と借り換え先の金利差が0.3%未満: 金利差がわずかであれば、手数料を払ってまで動く価値は乏しいと言えます。

もし、今の変動金利が0.5%前後で、借り換え先の固定金利が1.5%だとしたら、毎月の返済額は確実に上がります。「安心料」としてその差額を払えるかどうか、あるいは今のまま変動で耐えたほうがトータルでは安いのか、冷静なシミュレーションが必要です。

今のうちに詳細を確認しておく

マネカフェ

変動金利を維持する人のための「攻めの資産防衛」

「借り換えない」という選択をしたからといって、何もしないわけではありません。金利上昇に備える「攻め」の姿勢が必要です。

1. 「金利上昇分」を先回りして貯金する

例えば、金利が0.5%から1.0%に上がったと仮定して、増えるであろう返済額分をあらかじめ「住宅ローン対策口座」に貯めておきます。実際に金利が上がった際には、その貯蓄を繰り上げ返済に充てることで、元金を減らし利息の増加を抑えることができます。

2. NISA等の資産運用とのバランスを再考する

金利が0.75%程度であれば、依然として「住宅ローン控除」や「投資信託の期待利回り」の方が高い場合が多いでしょう。 「1%以下の金利であれば、あえてローンは返さず、手元の現金を新NISAなどで運用して、金利が2%を超えてきたら一気に繰り上げ返済する」という戦略は、知的な投資家層がよく取る手法です。

3. 銀行に「条件変更」を打診する

他行への借り換えを検討していることを今の銀行に伝えると、引き留めるために「金利の引き下げ」を提案してくれることがあります。これなら借り換え費用(事務手数料や登記費用)をかけずに金利を下げられるため、最も理想的な解決策になります。


今すぐやるべき「資産防衛」3つのステップ

では、私たちは具体的にどう動くべきでしょうか。パニックになる必要はありませんが、「数字」を確認することだけは怠ってはいけません。

ステップ1:現在のローンの「返済予定表」を確認する

まずは、銀行から定期的に送られてくる「返済予定表」を確認してください。 現在の適用金利と、直近で金利が変わるタイミングを把握せずに、対策を立てることはできません。

ステップ2:借り換え費用の「見積もり」を取る

「金利が下がるからお得」という言葉に騙されず、必ず「諸費用込み」でのシミュレーションを行ってください。ネット銀行の借り換えシミュレーターを使えば、事務手数料を含めた総支払額を簡単に出すことができます。

ステップ3:FP(ファイナンシャルプランナー)に客観的な意見を仰ぐ

銀行の担当者は、自分の商品のメリットしか言いません。借り換えるべきか、今のまま変動金利で耐えるべきか。あるいは一部を固定にする「ミックスプラン」にするか。 あなたの家計(教育費や老後資金)全体を俯瞰してアドバイスをくれる第三者の存在は、今のような不透明な時代において非常に心強い味方になります。


まとめ:金利上昇は「冷静な人」から得をする

銀行は教えてくれない「本当の対策」

銀行は、金利が上がれば上がるほど利益が出る仕組みになっています。一方で、借り換えられれば利益を失います。そのため、あなたにとって最適な「あえて動かない」という選択肢を積極的に提案してくれることはありません。

私たちの資産を守れるのは、私たち自身だけです。 0.75%への利上げは、パニックになる数字ではありません。むしろ「今のローン計画を見直す絶好のチャンス」です。

最後に:10年後の自分から感謝されるための行動

「あの時、感情的に借り換えなくてよかった」 あるいは 「あの時、諸費用を払ってでも固定に変えておいて正解だった」 10年後の自分がどちらの結論に至るかは、今のあなたの「数字に基づいた判断」にかかっています。

「借り換えるのが当たり前」という風潮に流されず、まずは今の自分の状況を客観的に把握することから始めてみてください。

マネカフェ

c) 免責事項

本記事に含まれる情報は、一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の金融商品の推奨を目的としたものではありません。借り換えには諸費用が発生し、必ずしも利益を保証するものではありません。最終的な判断は金融機関の提示する条件をよく確認し、ご自身の責任で行ってください。

Comments

No comments yet. Why don’t you start the discussion?

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です