知らないと損する「お守り」としての住まいの知識。40代が学ぶ住宅セーフティネット法

【導入】「もし、今の家に住めなくなったら…?」その不安、他人事ですか?

40代も半ばを過ぎると、自分のことだけでなく、親の将来についても考える時間が増えてきますよね。先日、長年の友人からこんな相談を受けました。「高齢の母親が一人暮らしなんだけど、今の古いアパートだと階段が大変そうで。新しい部屋を探してあげたいんだけど、年金暮らしで保証人もいないから、なかなか審査が通らないんだ…」と。

彼の話は、決して特別なケースではありません。高齢であること、収入が不安定なこと、障害があること、小さな子どもがいること…。様々な理由で、新しい住まいを探すのに苦労している人たちがいます。

「自分はまだ大丈夫」と思っていても、病気や失業、家族構成の変化など、人生には予期せぬ出来事がつきものです。そんな「もしも」の時、住まいの不安は私たちの心を重く沈ませます。

でも、もし、そんな状況に陥った人たちを社会全体で支え、安心して暮らせる家を見つける手助けをしてくれる公的な仕組みがあるとしたら、少しだけ心が軽くなりませんか?

実は、そんな制度がすでにあるのです。それが、今回お話しする**「住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」**です。

少し名前が長いですが、心配いりません。この記事では、この法律が一体どんなもので、私たちの生活にどう関わってくるのかを、難しい専門用語は使わずに、40代の私自身の視点も交えながら、じっくりと解説していきます。いつかあなたや、あなたの大切な人を助ける「お守り」になる知識かもしれません。ぜひ、最後までお付き合いください。

【第1章】そもそも「住宅セーフティネット法」って何?

まず、基本の「き」からお話ししましょう。この法律がなぜ生まれたのか、その背景を知ると、より深く理解できます。

■ なぜこの法律が生まれたのか?

今の日本には、大きく2つの住宅に関する課題があります。

一つは、**「空き家の増加」**です。人口が減り、古い家が増えたことで、誰も住んでいない家が全国で問題になっています。せっかく住める家があるのに、活用されていないのはもったいないですよね。

もう一つは、先ほどの友人の話のように**「家を借りにくい人たちの存在」**です。大家さんからすると、家賃滞納のリスクや、孤独死への不安などから、高齢者や収入の不安定な人への入居に慎重になってしまう気持ちも分からなくはありません。しかしその結果、住まい探しに困難を抱える人が増えてしまっているのも事実です。

この「余っている家」と「家を探している人」をうまく繋ぎ、誰もが安心して暮らせる社会を作ろう、という目的のもと、2017年に改正・施行されたのが、この住宅セーフティネット法なのです。

■ 「住宅確保要配慮者」って誰のこと?

法律の条文には「住宅確保要配慮者」という言葉が出てきます。これは「住まいを確保することに特に配慮が必要な人たち」という意味で、具体的には以下のような方々が対象となります。

  • 低額所得者
  • 被災者(発災後3年以内)
  • 高齢者
  • 障害者
  • 子どもを養育する者(子育て世帯)
  • 外国人
  • 中国残留邦人
  • 児童養護施設退所者
  • DV被害者
  • 矯正施設退所者
  • 生活困窮者 など

いかがでしょうか。「自分は関係ないかな」と思っていた方も、例えば「子育て世帯」という項目を見て、少し身近に感じたかもしれません。この法律は、決して特別な誰かのためだけのものではなく、私たちの誰もがなり得る状況を支えるための、広い網(セーフティネット)なのです。

【第2章】制度を支える「3つの柱」を徹底解説

では、具体的にこの制度はどのような仕組みで成り立っているのでしょうか。分かりやすく言うと、3つの大きな柱で支えられています。

■ 柱①:「セーフティネット住宅」の登録制度

これが制度の核となる部分です。空き家や空室を持つ大家さんが、「うちは住宅確保要配慮者の方の入居を拒みませんよ」という物件として、都道府県や市に登録する仕組みです。

登録された住宅は**「セーフティネット住宅」**と呼ばれ、専用のウェブサイト「セーフティネット住宅情報提供システム」で公開されます。家を探している人は、このサイトから自分に合った物件を見つけることができるのです。

もちろん、どんな物件でも登録できるわけではありません。耐震性があることや、一定の広さが確保されていることなど、入居者が安心して暮らせるための最低限の基準が設けられています。

この仕組み、大家さん側にはどんなメリットがあるのでしょうか?実は、ただの社会貢献というだけではありません。物件の改修費の補助を受けられたり、後述する家賃債務保証制度を利用しやすくなることで、家賃滞納のリスクを減らし、安定した賃貸経営に繋げることができるのです。

■ 柱②:大家さんと入居者への「経済的支援」

2つ目の柱は、お金の面でのサポートです。

【大家さんへの支援】 古い物件は、段差があったり、手すりがなかったりと、高齢者や障害者にとっては住みにくい場合があります。そこで、国や自治体は、登録する物件をバリアフリーに改修したり、共同住宅の共用部分を整備したりする費用の一部を補助しています。この支援があることで、大家さんも物件の価値を高めながら、より多くの人を受け入れやすくなります。

【入居者への支援】 そして、入居する側にとっても重要なのが経済的支援です。自治体によっては、セーフティネット住宅に入居する低所得世帯に対して、家賃の一部(家賃低廉化補助)や、家賃保証会社に支払う保証料の一部を補助する制度を設けています。 これは非常に大きな助けになりますが、注意点として、この支援はすべての自治体で実施されているわけではなく、内容も様々です。 まずはお住まいの地域の役所に問い合わせてみることが重要です。

■ 柱③:専門家による「居住支援」

3つ目の柱は、人と人との繋がりによるサポートです。物件探しや契約手続きは、誰にとっても簡単なことではありません。特に、様々な事情を抱えている場合はなおさらです。

そこで、国や都道府県は、NPO法人や社会福祉法人などを**「居住支援法人」**として指定しています。彼らは、家探しに困っている人に対して、以下のようなきめ細やかなサポートを提供してくれます。

  • セーフティネット住宅に関する情報提供や相談
  • 物件探し、不動産店への同行
  • 入居手続き、契約のサポート
  • 入居後の生活相談や見守り活動

まさに、住まい探しの「伴走者」となってくれる頼もしい存在です。 さらに、地域レベルでは、自治体、不動産関係団体、福祉関係団体などが連携して**「居住支援協議会」**を設立し、地域全体で住宅確保要配慮者を支える体制づくりを進めています。

【第3章】もし、私の知人がこの制度を使ったら?【ケーススタディ】

さて、制度の仕組みが分かったところで、もう少し具体的に、私たちの身近なケースで利用する流れをイメージしてみましょう。

■ ケース1:年金暮らしの親の住まいを探す友人Aさんの場合

冒頭で紹介した友人のAさん。彼はまず、地域包括支援センターに相談しました。そこで「住宅セーフティネット制度」と、地域の「居住支援法人」の存在を教えてもらいます。

早速、居住支援法人に連絡すると、担当者が親身に話を聞いてくれ、母親の希望(エリア、間取り、予算)や健康状態を丁寧にヒアリング。その上で、「セーフティネット住宅情報提供システム」を使って、一緒に物件を探してくれました。

いくつか候補が見つかり、居住支援法人の担当者にも同行してもらって内見へ。大家さんも制度を理解しているため、高齢であることを理由に断られることはありません。無事に母親の希望に合う物件を見つけ、契約手続きもサポートしてもらい、新しい生活をスタートすることができました。入居後も、居住支援法人が定期的に様子を気にかけてくれるので、Aさんも安心です。

■ ケース2:病気で収入が減ってしまった後輩Bくんの場合

私の後輩Bくんは、病気で長期療養が必要になり、会社の給料が大幅に減ってしまいました。今の家賃では生活が厳しいと感じ、彼はまず市役所の福祉課に相談に行きました。

すると、彼の状況は「住宅確保要配慮者」に該当し、市の「家賃低廉化補助」制度が利用できる可能性があることを知らされます。補助の対象となるのはセーフティネット住宅への入居です。

Bくんは早速、市の担当者から教えてもらった「セーフティネット住宅情報提供システム」で物件を検索。幸い、今の家からそう遠くない場所に、手頃な家賃の登録物件を見つけることができました。不動産会社での手続きを経て、無事に入居。市の補助のおかげで、以前よりも家賃負担を抑えることができ、安心して療養に専念できる環境を手に入れました。

【第4章】知っておきたいメリットと、少しの注意点

この制度には、入居者と大家さんの双方にメリットがありますが、利用する前に知っておきたい注意点もいくつかあります。

《入居者側のメリット》

  • 入居のハードルが下がる: 高齢や低所得などを理由に断られにくくなる。
  • 経済的負担の軽減: 自治体によっては家賃や保証料の補助が受けられる。
  • 安心感: 居住支援法人などによる入居後のサポートが期待できる。

《大家さん側のメリット》

  • 空室対策: 入居者の間口が広がり、空室が埋まりやすくなる。
  • 社会貢献: 地域の住宅問題の解決に貢献できる。
  • 経済的インセンティブ: 国や自治体から改修費の補助を受けられる。
  • リスク軽減: 家賃債務保証を利用しやすくなり、滞納リスクを減らせる。

《知っておきたい注意点》

  • 物件数の偏り: セーフティネット住宅の登録数は年々増加していますが、まだ都心部に集中しているなど、地域によって数に偏りがあります。希望のエリアに必ずしも物件があるとは限りません。
  • 支援制度は自治体次第: 家賃補助などの経済的支援は、国の制度ではなく、あくまで自治体が実施するものです。そのため、制度の有無や内容は地域によって大きく異なります。過度な期待はせず、まずは確認することが大切です。
  • まずは情報収集から: この制度を利用する第一歩は、とにかく情報を集めることです。「セーフティネット住宅情報提供システム」で自分の地域の物件状況を調べたり、自治体の窓口(福祉課や建築指導課など)に問い合わせてみましょう。

【まとめ】未来の自分と社会のための「お守り」

ここまで、住宅セーフティネット法について詳しく見てきました。

この法律は、単に「家がない人に家を提供する」というだけの単純なものではありません。空き家という社会資源を有効活用し、大家さんの不安を和らげ、専門家が伴走し、地域全体で支え合う。そうすることで、誰もが人生のどんなステージにあっても、「ただいま」と帰る場所に困らない社会を目指す、非常に大切な仕組みです。

今はまだ、自分には関係ないと感じるかもしれません。しかし、私たちは歳をとり、家族の形も変わり、時には予期せぬ困難に直面することもあります。そんな時、この制度を知っているという事実そのものが、あなたの心を支える一つの「お守り」になるはずです。

もしあなたの周りに住まいのことで困っている人がいたら、ぜひこの制度のことを教えてあげてください。そして、ご自身の親や、自分自身の将来のために、頭の片隅にこの「住宅セーフティネット制度」という言葉を置いておいていただけたら、嬉しく思います。

●情報収集はこちらから

まずは、お住まいの地域にどんな物件があるのか、どんな支援制度があるのか、一度調べてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、未来の安心に繋がっていくはずです。


【免責事項】 本記事は2025年9月時点の公開情報を基に、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。制度の改正や自治体ごとの運用の詳細については、必ず国土交通省の公式サイトやお住まいの自治体の担当窓口にご確認ください。本記事の情報を用いて行う一切の行為について、何ら責任を負うものではありません。

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