第21回 集中力を手に入れよう(1):なぜ僕らはすぐに飽きてしまうのか?

皆さん、こんにちは!

いよいよ今日から、第3部「記憶と集中 – 脳のポテンシャルを最大限に引き出す」に突入します。これまでは、知性を磨くための「心構え(OS)」をアップデートしてきましたが、ここからは、そのOSを動かす「脳の性能」そのものを高める、実践的なテクニックを探っていきます。

さて、皆さんはこんな経験はありませんか? 「よし、今日こそテスト勉強頑張るぞ!」と机に向かった矢先、ポケットのスマホが「ピコン♪」と鳴る。 (…ちょっとだけ、ほんの1分だけLINEチェック) 気づけば、そのままSNSのタイムラインを追いかけ、おすすめ動画をタップし、30分が溶けていた…。

なぜ、私たちはこれほどまでに「分かっているのに、やめられない」のでしょうか。なぜ、目の前の勉強よりも、スマホやゲームに心を奪われてしまうのでしょうか。

300年前、もちろんスマホなどありませんでしたが、アイザック・ワッツは、この「集中できない」という人間の弱さを、深く見抜いていました。彼によれば、「思考の安定した集中力を獲得することは、精神を向上させる上で極めて重要である」 のです。

今回は、その集中力を手に入れる第一歩として、まず「なぜ私たちは集中できないのか?」、その「敵」の正体を突き止めていきましょう。

ワッツが見抜いた「集中力の大きな敵」

ワッツは、集中力を妨げる「大きな敵」として、「より感覚的な感情や欲望にふけるのを避けること」 が重要だと説いています。 「感覚的な欲望」とは何でしょうか。これは、現代の私たちにとって、痛いほどよく分かるものです。

  • 「今すぐ楽しい」 が欲しい(ゲーム、動画、マンガ)
  • 「新しい刺激」 が欲しい(SNSのタイムライン、ネットニュース)
  • 「人とのつながり」 が欲しい(LINEやDMの返信)
  • 「面倒なことから逃げたい」(勉強や難しい課題)

これらすべてが、私たちの「感覚」を直接的に、そして即座に満足させてくれる「欲望」です。 テスト勉強がもたらす「将来の満足」よりも、目の前のスマホがくれる「今、この瞬間の快楽」。私たちの脳は、残念ながら後者に引きずられやすいようにできているのです。ワッツは、これらこそが**「集中力の大きな敵である」** と断言しています。

スマホは「最強の集中力妨害マシン」

もしアイザック・ワッツが現代に生きていたら、スマートフォンを見て驚愕したに違いありません。なぜなら、スマホは、彼が警告した「集中力の敵」である**「感覚的な欲望」を、24時間365日、私たちのポケットの中で生成し続ける、最強の「妨害マシン」**だからです。

  • 「ピコン♪」という通知音 これは、あなたの集中を強制的に中断させるための「フック」です。「新しい情報が来たぞ!」「誰かが君を呼んでいるぞ!」と、あなたの「感覚」に直接訴えかけます。
  • 無限に続くタイムライン これは、あなたの「新しい刺激が欲しい」という欲望を満たし続けます。次から次へと目新しい情報が流れてくるため、あなたの脳は「飽きる」暇もなく、いつまでも画面に釘付けになってしまいます。
  • ゲームのレベルアップと報酬 これは、「今すぐ楽しい」という欲望を、最も効率的に刺激する仕組みです。小さな努力(タップ)で、すぐに明確な報酬(アイテム、スコアアップ)が得られるため、脳は強烈な快感を覚えます。

ワッツはまた、「関連性のない複数の主題に同時に取り組むことを避ける」 こと、つまりマルチタスクの危険性も指摘しています。「数学の勉強をしながら、LINEの返信を待ち、時々SNSをチェックする」という状態は、まさに集中力を破壊する最悪の環境なのです。

集中できないのは「意志」が弱いから? – 敵を知る

「分かっていてもやめられない自分は、なんて意志が弱いんだろう…」 そう自分を責めてしまう人もいるかもしれません。しかし、問題はあなたの「意志の弱さ」だけではありません。問題は、あなたの「敵」であるスマホやゲームが、人間の脳の仕組みをあまりにも巧みに利用し、強力すぎるということです。

ワッツは、「美しい景色や動的な環境など、注意を散漫にする場所で勉強しないこと」 ともアドバイスしています。考えてみてください。スマホほど「動的」で「注意を散漫にする」環境が、他にあるでしょうか? 私たちは、そんな強力な妨害マシンを、勉強机の真横に置いているのです。集中できなくて当たり前なのです。

だから、まず自分を責めるのはやめましょう。 大切なのは、意志の力で無理やり戦うことではありません。まずは、敵の正体を知ること。 「ああ、今、スマホを触りたくなったのは、脳が『新しい刺激』という欲望に負けそうになっているからだな」 「この『ピコン♪』という音こそが、ワッツが言っていた『集中力の敵』なんだな」 と、自分を客観的に認識することです。

まとめ:敵の正体を知れば、戦い方が見えてくる

今回は、私たちがなぜすぐに飽きてしまうのか、その「集中力の敵」の正体について探ってきました。

ポイントを振り返ってみましょう。 第一に、集中力の「大きな敵」とは、**「今すぐ楽しい」を求める「感覚的な感情や欲望」**であること 。 第二に、スマホやゲーム、SNSは、これらの欲望を巧みに刺激し続けるために設計された、最強の「集中力妨害マシン」であること。 そして第三に、集中できないのはあなたの意志が弱いからだけではなく、敵が強力すぎるから。まずはその敵の正体を、冷静に認識することが第一歩であること。

敵の姿が見えなければ、戦いようがありません。しかし、その正体さえ分かってしまえば、対策を立てることができます。次回は、この強力な「敵」と賢く付き合い、あなたの「集中力」という名の城を守り抜くための、具体的な戦術についてお話しします。

【明日からできるアクションプラン】 明日、勉強や宿題を始めるとき、スマートフォンのストップウォッチ機能でタイマーをセットしてみましょう。ただし、セットしたら、画面を「伏せて」置いてください。そして、タイマーが鳴るまでの15分間、何が起きても(通知音が鳴っても)絶対にスマホを手に取らない、と決めてみてください。 15分後、自分がどれだけスマホを触りたくなったか、その「欲望」の強さを感じてみましょう。敵の強さを知ること。それが、集中力を手に入れるための、最初の偵察任務です。

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