皆さん、こんにちは!
「読書」、と聞くと、皆さんはどんなイメージを持ちますか? 静かな部屋で、一人黙々とページをめくる…そんな、少し受け身で、おとなしい姿を想像する人が多いかもしれません。「読書感想文が苦手で…」「教科書を読んでいても、内容が全然頭に入ってこない」なんて悩みを持つ人もいるでしょう。マンガなら何時間でも読めるけど、活字だけの本はちょっと…と感じる人もいるかもしれませんね。
もし、そんな「静かな読書」のイメージが、180度ひっくり返るとしたら? もし、読書が、著者と白熱した議論を交わしたり、物語の登場人物と一緒に冒険の作戦を練ったりするような、「超アクティブでエキサイティングな体験」に変わるとしたら、どうでしょう。
実はそれこそが、300年前にアイザック・ワッツが提唱した、知性を向上させるための読書術の神髄なのです。今回のテーマは、「対話する読書」。この記事を読み終える頃には、あなたの目の前にある本が、単なる文字の集まりから、語りかけてくる生きたパートナーへと変わるはずです。
読書は「観戦」じゃない、「参戦」だ! – 著者への挑戦状
多くの人が、読書を「著者という専門家が話すのを受講生として静かに聞く」ような、一方通行のインプット作業だと考えています。本に書かれていることは、基本的に正しいこと、あるいは完成された意見として、そのまま受け入れようとします。しかし、ワッツの読書法は、その真逆です。
彼は、読書をする者に対して、
「著者の意見だけでなく、その内容が正しいか否かを考察し、証拠と推論に基づいて判断する」 ように強く促しています。これは、本に書かれていることを「ふーん、そうなんだ」と鵜呑みにするのではなく、常に「それって、本当?」「なぜ、そう断言できるの?」「別の考え方はないの?」と、まるで議論をふっかけるように、批判的な視点(クリティカルな視点)を持って読むということです。
つまり、ワッツにとって読書とは、試合を客席から眺める「観戦」ではありません。リングに上がって著者と対峙する「参戦」なのです。
この「対話する読書」を、皆さんの身近な教科書で実践してみましょう。 例えば、歴史の教科書で「ペリーが来航し、江戸幕府は開国を迫られた」という一文を読んだとします。
- これまでの「受け身な」読み方 「なるほど、ペリーが来て、日本は無理やり開国させられたんだな。テストに出るから覚えよう」 これでは、知識はただの暗記事項で、すぐに忘れてしまうかもしれません。
- これからの「対話する」読み方 あなたは、教科書の記述に対して、心の中でツッコミを入れ始めます。 「本当に『迫られた』だけだったのかな? 日本側には、外国と貿易したくてウズウズしていた人はいなかったんだろうか?」 「『開国』って言うけど、具体的にどんな条約を結んだんだろう? それって、日本にとって完全に不利なものだったの?」 「もし自分が当時の老中だったら、どう判断しただろう? 国内の反対派をどう説得したかな…?」
ほら、たった一つの文から、これだけの問いが生まれます。この問いかけこそが、教科書の編纂者という「著者」との対話の始まりです。もちろん、すぐに答えは見つからないでしょう。しかし、この「なぜ?」をきっかけに、資料集を見たり、インターネットで調べたり、あるいは先生に質問したりすることで、あなたの学びは、単なる暗記から、主体的な「探求」へと変わります。
本は、ありがたいお説教が書かれたものではありません。著者からの「私はこう考えるが、君はどう思う?」という挑戦状なのです。その挑戦に、あなた自身の思考で応えること。それが「対話する読書」の第一歩です。
登場人物にインタビューしよう – 物語の世界にもっと深くダイブする方法
「著者と対話する、というのは分かったけど、小説やマンガみたいな物語はどうなの?」 とても良い質問です。物語を読むとき、私たちはつい感情移入し、ストーリーの展開にハラハラドキドキすることに集中しがちです。しかし、ここでも「対話」のテクニックを使うことで、物語の世界にもっと深く、豊かにダイブすることができるのです。
その方法とは、ずばり**「登場人物にインタビューする」**ことです。
例えば、あなたが大好きなファンタジー小説を読んでいるとしましょう。主人公の勇敢な魔法使いが、仲間たちの制止を振り切って、一人で危険なドラゴンの巣に乗り込んでいくシーンです。
- これまでの「受け身な」読み方 「うわー、主人公すごい! カッコいいけど、無茶だよ! どうか無事でいて!」 このように、物語の展開をただ追いかけ、感情的に反応するのも、読書の楽しみ方の一つです。
- これからの「対話する」読み方 あなたは、心の中でインタビュアーになります。まずは主人公にマイクを向けてみましょう。 「〇〇さん、お伺いします! なぜ今、一人で行く決断をしたのですか? 仲間を危険に巻き込みたくなかったからですか? それとも、自分の力を過信していたのでしょうか?」 「もし、あなたがドラゴンに負けてしまったら、王国はどうなるか考えましたか? その責任の重圧は感じていますか?」
次に、敵であるドラゴンにもインタビューしてみます。 「ドラゴンさん、そもそも、なぜあなたは村を襲い、宝物を集めているのですか? 何か人間たちに恨みでもあるのでしょうか? あなたにとっての『平和』とは何ですか?」
さらに、主人公を止めようとした仲間にも話を聞きます。 「彼を止められなかった今、どんな気持ちですか? 彼を信じて待つべきか、それとも後を追うべきか、意見が割れているようですが…」
このように、登場人物一人ひとりの行動やセリフに対して、「なぜ?」「どうして?」と問いかけ、その動機や心理を深く掘り下げていく。すると、単にストーリーを追うだけでは見えてこなかった、キャラクターの葛藤や、物語の裏に隠された深いテーマ、作者が本当に伝えたかったメッセージなどが、手に取るように分かってきます。
あなたはもはや、物語を消費するだけの「観客」ではありません。登場人物の心に入り込み、その世界の出来事を多角的に捉える「参加者」へと変わっているのです。
「知のノート」で対話の記録を残そう – 読んだら忘れない技術
さて、著者や登場人物と白熱した「対話」を繰り広げていると、頭の中にはたくさんの疑問や発見、自分なりの考えが浮かんできます。しかし、残念ながら、人間の脳は忘れやすいようにできています。せっかくの対話も、本を閉じてしまえば、その多くが記憶の彼方へ消えていってしまいます。
そこでワッツは、ただ読むだけでなく、自分の考えを「記録する」ことの重要性を説いています。彼は**「著者の欠点や不備を記録し、分析を作成したりする」** ことを勧めていますが、これはまさに、読書中の対話を形に残す作業です。
ここでは、誰でも簡単に始められる「対話ノート術」を紹介します。
【見開き完結!対話ノートの作り方】
- ノートのページを見開きで使います。
- 左ページには、本を読んでいて「重要だ」と思った箇所や、「心に響いた」一文をそのまま書き抜きます。これは、**「著者(本)の主張」**のスペースです。
- 右ページには、左ページに書いたことに対する、あなたの**「心の声」**を自由に書きなぐります。例えば、以下のような内容です。
- ツッコミや反論: 「いや、それは違うと思うな」「この時代だから言えることだよね」
- 素朴な疑問: 「この言葉の定義がよく分からない」「なぜ、ここでこの結論になるの?」
- 自分の経験との結びつけ: 「これ、部活で経験したことと同じだ!」「あの時の先生の言葉は、こういう意味だったのかも」
- 自分ならどうするか: 「私なら、この場面でこうするのに…」
例えば、このブログ記事を対話ノートにまとめると、こんな感じになるかもしれません。
- 【左ページ:本の主張】
- ワッツは「熟慮した読書が正確な判断を保証する」と述べている 。
- 【右ページ:自分との対話】
- 「熟慮した読書」って、具体的にはどういう読み方? 時間をかければいいのかな?
- でも、テスト前は速く読まないといけない時もある。速読と熟慮って、両立できるんだろうか? ワッツなら速読について何て言うかな?
- そういえば、前に歴史の教科書を一夜漬けで丸暗記したけど、テストが終わったら全部忘れてた…。あれは「熟慮」じゃなくて、ただの「作業」だったからか!納得。
このノートを作るプロセスそのものが、ワッツが「知識を得るための5つの優れた方法」の最後の一つとして挙げた**「瞑想(または勉強)」**、すなわち「得た知識を吟味し、自分自身のものにする」という、知の錬金術なのです。この一手間をかけることで、あなたの読書体験は決して忘れられないものとなり、本物の血肉となるでしょう。
まとめ:本は、最高の議論パートナーだ
今回は、受け身な読書を卒業し、本と積極的に関わる「対話する読書」という技法についてお話ししました。
ポイントを振り返りましょう。 第一に、読書は静かなインプット作業ではなく、著者と意見を戦わせる「対話」であり「参戦」です。 第二に、教科書には「なぜ?」と鋭くツッコミを入れ、小説やマンガの登場人物には「どうして?」と深くインタビューすることで、学びや理解は劇的に深まります。 そして第三に、読書中に生まれたあなた自身の考えや疑問を「対話ノート」に記録することで、知識は忘れがたいものになり、あなただけの知の財産となるのです。
アイザック・ワッツの教えは、本と私たちの関係を、根本から変えてしまうほどの力を持っています。本は、もはや一方的に教えを授けてくれる「先生」ではありません。共に考え、悩み、時には反論し合うことができる、対等で最高の「議論パートナー」なのです。
この素晴らしいパートナーとの対話を、あなたも今日から始めてみませんか?
【明日からできるアクションプラン】 今、あなたが読んでいる本(教科書でも、小説でも、マンガでも、何でも構いません)を開いてください。そして、少しでも「ん?」と心が動いた箇所や、疑問に思った箇所に、一本だけ線を引いてみましょう。そして、そのページの余白に、「なぜ?」「本当?」と、たった一言でいいので書き込んでみてください。
その小さな書き込みこそが、静かだった読書の世界に、あなた自身の声を響かせる第一声。エキサイティングな「対話」の始まりを告げる、魔法の呪文となるはずです。