
こんにちは!ブログ主です。
前回の第7回では、会社の「成績表」である損益計算書(P/L)を読み解き、フジクラが非常に好調な業績を上げていることを確認しました。
しかし、いくら成績が良くても、体が不健康では意味がありません。企業も同じで、「業績(P/L)」と「健康状態(B/S)」はセットで見ることが鉄則です。
今回は、企業の**「健康診断書」とも言える「貸借対照表(B/S:Balance Sheet)」**を徹底解剖します。B/Sは、**ある特定の日(今回は2025年6月30日時点)**における、企業の財産状況をスナップショットのように切り取ったものです。学習パートナーのGeminiと共に、フジクラの財務的な体力を隅々までチェックしていきましょう。
貸借対照表(B/S)の絶対ルール:「左=右」
B/Sを読み解く前に、たった一つだけ、絶対に知っておくべき大原則があります。それは、B/Sの左側と右側の合計金額は、必ず一致するというルールです。
- 左側:資産の部 …… 会社が保有している財産(お金の使い道)
- 右側:負債の部 + 純資産の部 …… その財産をどうやって集めたか(お金の集め方)
【B/Sの絶対公式】 資産 = 負債 + 純資産
このシンプルな等式を頭に入れておけば、B/Sの構造は驚くほど簡単に理解できます。
B/Sの左側「資産の部」 – 会社が持つ財産の内訳
まず、B/Sの左側「資産の部」から見ていきましょう。ここには、フジクラが2025年6月30日時点で**「どのような財産を、どれだけ持っているか」**が記載されています。資産は、現金化しやすいかどうかで、大きく2つに分類されます。
流動資産 – 1年以内に現金化できる短期的な資産
企業の「瞬発力」や「支払い能力」を示す資産です。
- 現金及び預金:1,417億円 すぐに使えるお金です。これが潤沢にあると、急な支払いに強く、経営の安定性が高まります。前期末の1,850億円から減少していますが、これは決算短信P.4に記載の通り、好調な事業を支えるための仕入代金の支払いや、株主への配当金の支払いに使われたためで、健全な事業活動の結果と言えます。
- 受取手形、売掛金及び契約資産:2,095億円 商品を販売したものの、まだ代金を受け取っていない「ツケ」のことです。売上が伸びれば増加する傾向にありますが、あまりに多いと回収できていない可能性も考えられます。
- 棚卸資産:1,540億円 製品や原材料などの「在庫」です。ビジネスに不可欠ですが、過剰な在庫は、売れ残りや管理コストの増大に繋がるため注意が必要です。
固定資産 – 1年以上にわたって会社を支える長期的な資産
企業の「持久力」や「成長の土台」となる資産です。
- 有形固定資産:1,737億円 工場、機械、土地など、形のある資産です。フジクラの「ものづくり」の力の源泉がここにあります。
- 無形固定資産:169億円 特許権やソフトウェアなど、形のない資産です。企業の技術力やブランド価値を示します。
- 投資その他の資産:756億円 長期保有目的の有価証券(他の会社の株など)や、子会社への貸付金などが含まれます。
フジクラの資産合計は、7,961億円でした。
B/Sの右側「負債と純資産の部」 – 財産をどうやって調達したか
次に、B/Sの右側を見ていきます。7,961億円の資産を、フジクラが**「どのような方法でお金を集めて調達したか」**が分かります。
負債の部 – いずれ返済が必要な「他人資本」
銀行からの借入金や、取引先への未払金など、他人から調達した、いずれ返さなければならないお金です。
- 流動負債:2,385億円 1年以内に返済・支払期限が来る短期的な負債です。「買掛金」や「短期借入金」などが含まれます。
- 固定負債:1,124億円 返済期限が1年より後になる長期的な負債です。「社債」や「長期借入金」が含まれます。
フジクラの負債合計は、3,509億円です。
【深掘り分析①】短期的な安全性は万全か?「流動比率」
ここで、企業の短期的な支払い能力を測る重要な指標**「流動比率」**を計算してみましょう。 【計算式】流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
- フジクラの流動比率:222.2% (5,300億円 ÷ 2,385億円)
流動比率は、1年以内に返済が必要な負債(流動負債)を、1年以内に現金化できる資産(流動資産)でどれだけカバーできるかを示します。一般的に200%以上あれば極めて安全と言われており、フジクラの短期的な安全性は万全であることが分かります。
純資産の部 – 返済不要の「自己資本」
株主からの出資金や、会社が設立されてから稼いできた利益の蓄積など、返済する必要がない、純粋な自分のお金です。
- 株主資本:3,527億円 これが純資産の中核です。特に**「利益剰余金(2,857億円)」**は、会社が過去に生み出してきた利益の蓄積であり、企業の成長の歴史そのものです。
- 純資産合計:4,453億円
【深掘り分析②】P/LとB/Sの繋がり
ここで、P/Lとの繋がりが見えてきます。前期末の利益剰余金(2,728億円)に、今期の最終利益(313億円)を加え、そこから株主への配当金などを支払った残りが、今期の利益剰余金(2,857億円)になります。P/Lで稼いだ利益が、B/Sの純資産を増やし、会社を成長させるというダイナミックな連動がここから読み取れます。
まとめ:B/Sからフジクラの「健全性」を読み解く
B/S全体を眺めて、企業の長期的な安全性を測る最重要指標が**「自己資本比率」**です。 【計算式】自己資本比率(%) = 純資産 ÷ 総資産 × 100
- フジクラの自己資本比率:55.9% (4,453億円 ÷ 7,961億円) ※短信1ページ目の52.5%は計算方法が若干異なりますが、どちらも高い水準です。
一般的に40%以上で優良と言われる中、フジクラの自己資本比率は非常に高く、**財務基盤が極めて安定している「健康優良企業」**であると診断できます。
今回は、B/Sを読み解くことで、フジクラが「業績好調」なだけでなく、「財務的にも非常に健全」であることを確認できました。
さて、財務三表の最後の一つ、「キャッシュ・フロー計算書」とは何でしょうか。それは、利益の数字だけでは見えない、リアルな「現金の動き」を示す、いわば会社の家計簿です。
次回、『第9回:利益と現金は違う!キャッシュ・フロー計算書(C/F)の重要性』で、企業の血液とも言える「現金」の流れを追いかけます。お楽しみに!
