
その「なんとなく外食」、本当にコスパ良いですか?
「いやあ、最近の物価高、本当にきついよね」。 先日、久しぶりに会った20代の知人が、開口一番そうこぼしていました。彼は最近、転勤で一人暮らしを始めたばかり。慣れない仕事と生活で、平日の夜はコンビニ弁当か、会社の近くでラーメンを食べて帰る毎日だそう。
「自炊した方が安いのは分かってるんですけど、時間も元気もなくて。でも、食費が月5万超えてて、正直ヤバいんです…」
分かります。すごく分かります。 一人暮らしの食費問題は、永遠のテーマですよね。総務省の家計調査(2024年)によると、一人暮らし(単身世帯)の食費の平均は、1ヶ月あたり約44,000円。そのうち「外食費」が約1万円を占めています。
この数字、どう感じますか? 「まあ、そんなものか」と思うかもしれません。でも、この「なんとなくの外食」と「たまのコンビニ飯」が、ボディブローのように家計と、そしてあなたの「健康」を蝕んでいるとしたら?
「自炊は本当に安いのか?」 「栄養バランスなんて考えられるわけがない」
そんな疑問や諦めを感じている一人暮らしの方へ。 今日は、40代になった私がようやくたどり着いた、「安さ」と「栄養」を両立させる、無理しない自炊のリアルな話をしたいと思います。
結論から言えば、「やり方次第で、自炊は外食や中食(コンビニ・惣菜)より圧倒的に安く、そして驚くほど健康的になれます」。
この記事は、完璧な料理術を教えるものではありません。むしろ、いかに「ズボラ」に、賢く食費と健康を管理するか、という実践的なガイドです。読み終わる頃には、「これなら自分にもできるかも」と思ってもらえるはずですよ。
第1章:自炊 vs 中食 vs 外食。残酷なコストと栄養の真実
まず、敵を知るところから始めましょう。私たちは毎日、「自炊」「中食(なかしょく:コンビニ弁当、スーパーの惣菜など)」「外食」という3つの選択肢に囲まれています。
1-1. リアルな数字で見る「1ヶ月の食費シミュレーション」
よく「自炊は高い」という人がいます。理由を聞くと、「初期投資(調理器具や調味料)がかかる」「食材を余らせて腐らせてしまうから」と。
確かに、それも一理あります。 しかし、長期的に見たらどうでしょうか?
ある試算によれば、1食あたりのコストはざっくりと以下のようになります。
- 自炊:約250円〜300円
- 中食(コンビニ弁当・惣菜):約500円〜700円
- 外食(ランチ・ディナー):約800円〜1,500円
これを基に、極端なシミュレーションをしてみましょう。(1日3食、30日として)
Aさん:自炊メイン(週に数回は中食・外食)
- (自炊 250円 x 2食 + 中食 600円 x 1食) x 20日 = 22,000円
- (外食 1000円 x 2食 + 中食 600円 x 1食) x 10日 = 26,000円
- 合計:月48,000円
- ※これはかなり余裕を持った計算です。節約を意識すれば月3万円台も十分可能です。
Bさん:中食・外食メイン
- (中食 600円 x 2食 + 外食 1000円 x 1食) x 30日
- 合計:月66,000円
どうでしょうか。Bさんの場合、平均の44,000円を軽く超えてしまいます。AさんとBさんの差は、年間で216,000円。もし、Bさんがもっと外食(1食800円)メインで、自炊を一切しなかった場合、その差は年間60万円近くになるという試算もあります。
もちろん、初期投資はかかります。しかし、フライパン、片手鍋、包丁、まな板、基本的な調味料(塩・砂糖・醤油・味噌・油)を揃えても、1万〜2万円程度。これは、たった1ヶ月で元が取れてしまう計算です。
「食材を腐らせる」問題は、次の章で解決策をお話しします。
1-2. 見落としがちな「栄養コスト」の罠
お金の話以上に深刻なのが、「栄養コスト」です。 中食や外食がなぜ美味しいか。それは、私たちの舌が喜ぶように「塩分」「脂質」「糖質」がしっかり(往々にして過剰に)使われているからです。
コンビニ弁当や丼もの、ラーメンを想像してください。 美味しいですよね。でも、そこに含まれる「野菜」はどれくらいですか? タンパク質は?
多くの外食・中食は、**「高カロリー・高塩分・高脂質」でありながら、「低ビタミン・低ミネラル・低食物繊維」**です。
自炊の最大のメリットは、これをすべてコントロールできること。
- 塩分を控えめにできる。
- 使う油の質と量を選べる。
- 「あと一品」の野菜を簡単に追加できる。
- タンパク質を意識して摂取できる。
一人暮らしを始めて太った、肌が荒れた、疲れやすくなった…という人は、ほぼ間違いなくこの「栄養コスト」を支払い続けている状態です。
コスト面でも栄養面でも、「自炊」に軍配が上がることは明らかです。問題は、「どうやって続けるか」だけなのです。
第2章:挫折しない!「安さ」と「栄養」を両立するズボラ自炊術
「正論は分かった。でも、時間がないし面倒なんだ」 はい、ここからが本題です。私が推奨するのは「完璧な自炊」ではありません。「60点でOK」のズボラ自炊術です。
2-1. マインドセット:「毎日3食」の呪いを解く
まず、完璧主義を捨ててください。 「自炊するなら、毎日3食、一汁三菜!」なんて考えるから挫折するんです。
- 目標は「週の半分」でOK。
- 朝は食べない、または固定(納豆ごはん、ヨーグルト)でOK。
- 夜に自炊できたら100点満点。
- 「一汁一菜」(ごはんと具沢山の味噌汁だけ、とか)で十分。
疲れている日は、潔く休みましょう。その代わり、コンビニで買う時も「栄養」を意識する(詳しくは第3章で)。 この「ゆるさ」が、継続の最大のコツです。
2-2. 買い物術:節約と栄養のキモは「買い方」にあり
自炊の成否は、8割「買い物」で決まります。 「食材を腐らせる」人は、買い方に問題があります。
① 買うべき「スタメン食材」を決める 一人暮らしの冷蔵庫は小さいです。少数精鋭で戦いましょう。以下の食材は、安価で栄養価が高く、使い回しが効きます。
- 【神・タンパク質】: 卵、鶏胸肉(orもも肉)、納豆、豆腐(絹・木綿)
- 【準レギュラー】: 豚こま切れ肉、鮭・サバ(切り身や缶詰)
- 【野菜(使いやすいもの)】: 玉ねぎ、人参、キャベツ(or白菜)、キノコ類(しめじ、えのき等)
- 【救世主】: 冷凍野菜(ブロッコリー、ほうれん草、刻みネギ)、カット野菜(高いが時短になる)
- 【その他】: ツナ缶、トマト缶、わかめ(乾燥)
これだけあれば、1週間は余裕で戦えます。
② 買い物は「週1〜2回」のまとめ買い 毎日スーパーに行くと、必ず余計なもの(お菓子や割引の惣菜)を買ってしまいます。 「今週は鶏胸肉とキノコで乗り切る」と決め、それだけ買って帰る。これが食材ロスを防ぎ、節約につながります。
③ 「見切り品」を恐れない スーパーの閉店間際の値引き品。最高です。 特に肉や魚は、買ってきたらすぐに「下味冷凍」(次の項目)すれば、全く問題ありません。野菜も、すぐに使うか、カットして冷凍すればOKです。
2-3. 保存術:「下味冷凍」と「野菜冷凍」が神
買ってきた食材を、そのまま冷蔵庫に突っ込んでいませんか? それが腐らせる原因です。 たった10分の「仕込み」で、未来の自分が劇的に楽になります。
- 肉・魚は「下味冷凍」一択 買ってきた鶏肉や豚こま肉。パックのまま冷凍? 最悪です。 ジップロック袋に肉を入れ、「醤油・酒・みりん(黄金比 1:1:1)」「塩麹」「焼肉のタレ」など、何でもいいので揉み込んでから冷凍します。 【メリット】
- 味が染みて美味しくなる。
- 冷凍焼けを防げる。
- 解凍して焼くだけで「一品」が完成する。
- 野菜は「切って冷凍」 人参(いちょう切り)、玉ねぎ(スライス)、キノコ類(ほぐす)、ほうれん草(茹でてカット)… 全部まとめて切って、種類ごとにジップロックで冷凍。 味噌汁、炒め物、スープに、凍ったまま「ポイッ」と入れるだけ。これで野菜不足は解消されます。
- 米は「まとめて炊いて冷凍」 基本中の基本ですが、炊飯器の保温機能は電気代もかかるし味も落ちます。炊きたてを1食分ずつラップに包み、粗熱が取れたら即冷凍。食べる時にレンジでチンすれば、炊きたての味が蘇ります。
第3章:栄養バランスを整える「最低限のルール」
さて、「安さ」は第2章でかなりクリアできました。次は「栄養」です。 とはいえ、難しい計算は不要です。
3-1. 栄養失調にならないための「PFCバランス」の意識
「PFCバランス」という言葉を聞いたことがありますか?
- P = Protein(タンパク質):筋肉、髪、肌、血液の材料。
- F = Fat(脂質):エネルギー源、ホルモンの材料。
- C = Carbohydrate(炭水化物):主要なエネルギー源(糖質+食物繊維)。
厚生労働省は、生活習慣病予防のために、このバランスを「P:13〜20%」「F:20〜30%」「C:50〜65%」と推奨しています。
…と言われても、分からないですよね。
要するに、一人暮らしが陥りがちなのは、 「P(タンパク質)が不足し、F(脂質)とC(糖質)が過剰になる」 という最悪のバランスです。
(例:朝は菓子パン、昼はラーメン、夜はパスタ。全部「C(糖質)」と「F(脂質)」ばかり!)
タンパク質が不足すると、筋肉が落ちて基礎代謝が下がり(太りやすくなる)、疲れやすくなり、集中力も低下します。
3-2. 簡単「手のひらルール」でチェック
そこで、簡単な「手のひらルール」を導入しましょう。
- タンパク質 (P):毎食、「自分の手のひら(指含まず)サイズ」のタンパク質を摂る。 (例:卵2個、鶏肉100g、豆腐半丁、魚の切り身)
- 野菜 (Cの食物繊維):毎食、「両手で一杯分」の生野菜、または「片手で一杯分」の加熱野菜を摂る。
- 炭水化物 (Cの糖質):毎食、「握りこぶし一つ分」のごはんやパン。
この3つが食卓に揃っていれば、だいたいOKです。 自炊なら、冷凍しておいた野菜と肉(P)を炒め、冷凍ごはん(C)をチンすれば完成です。簡単ですよね。
3-3. 救世主!コンビニ・中食の「賢い」選び方
とはいえ、毎日自炊は無理。 そんな時、コンビニやスーパーの惣菜に頼るのは「悪」ではありません。「選び方」が重要なだけです。
【悪い例】
- カップラーメン + おにぎり
- カツ丼
- 菓子パン + 甘いジュース
これらはすべて「C(糖質)」と「F(脂質)」の塊です。
【良い例(ちょい足し術)】
- おにぎり・パンを買うなら… → + サラダチキン(P)、ゆで卵(P)、具沢山の味噌汁(野菜)、野菜ジュース(無糖)を足す。
- パスタ・丼ものを買うなら… → + パックのサラダ、ほうれん草のおひたし(惣菜)、豆腐 を足す。
- 惣菜を選ぶなら… → 唐揚げやコロッケ(F)だけでなく、「焼き魚(P)」や「筑前煮(野菜)」を選ぶ。
要は、「P(タンパク質)」と「野菜」を意識的に「足す」だけで、栄養バランスは劇的に改善します。
第4章:自炊を続けるための「時間術」と「メンタルケア」
最後に、この「ゆるい自炊」を続けるためのコツです。
4-1. 時間がない人のための「ついで調理」
自炊が面倒なのは、「料理のためだけの時間」を取ろうとするからです。 すべて「ついで」にやりましょう。
- お湯を沸かしている「ついで」に、野菜を切る。
- レンジで解凍している「ついで」に、食器を洗う。
- 週末、テレビを見ている「ついで」に、下味冷凍を作る。
料理は「作業」ではなく、「家事のフロー」に組み込むと楽になります。
4-2. 自炊がもたらす「心の余裕」(知人談)
これは私の実感ですが、自炊はメンタルヘルスにも非常に良い影響を与えます。 私の知人(冒頭とは別の人ですが)も、外食ばかりで荒れていた時期がありました。しかし、簡単な自炊(最初は味噌汁だけ)を始めたところ、変わっていきました。
彼が言うには、 「まず、お金の不安が減った。月末に『食費ヤバい』と焦るストレスがなくなったのがデカい」 「あと、自分で作ったまともな飯を食うと、『自分を大事にしている』感じがする。これが意外と自己肯定感を上げてくれる」
料理はクリエイティブな作業であり、一種の瞑想(マインドフルネス)にもなります。野菜を無心で切っていると、仕事のイライラが鎮まることもありますよ。
結論:最強の自己投資は「自炊」である
「一人暮らしの自炊は安いのか、栄養バランスも考える」
この問いに対する私の答えは、 「自炊は、最強のコストパフォーマンスを誇る『未来への自己投資』である」 です。
外食や中食に支払うお金は、その場の空腹を満たす「消費」です。 一方、自炊に使うお金と時間は、将来の「医療費」を節約し、健康で活力ある「自分」を作るための「投資」です。
年間20万、30万と浮くお金。 疲れにくく、集中力のある身体。
これらを「面倒くさい」という一時的な感情で手放すのは、あまりにもったいない。
完璧を目指さなくていいんです。 まずは今週末、スーパーに行って、卵と鶏肉、そして冷凍ブロッコリーを買うところから始めてみませんか? 「下味冷凍」を一つ作っておくだけで、来週のあなたがきっと感謝してくれますよ。
【免責事項】
本記事は、食生活に関する情報提供を目的としています。特定の健康効果や節約効果を保証するものではありません。 栄養に関する記述は一般的な情報に基づいています。持病をお持ちの方や、詳細な栄養指導が必要な方は、医師または管理栄養士にご相談ください。 本記事に記載された情報を利用することにより生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

