
「最近、どう?」
先日、久しぶりに会った同年代の知人(40代・子持ち)は、コーヒーを一口飲むと、深いため息とともにつぶやきました。
「いやあ、お金の話なんだけどさ。この前、保険の見直し相談に行ったら、やっぱり教育費の話になってさ。『大学4年間で、私立文系なら最低400万、理系なら…』って、一括や長期積立で数百万円のプランを勧められて…。『今が一番の貯め時ですよ!』って言われると、焦るよね」
その気持ち、痛いほどわかります。 40代。仕事では責任が増え、家庭では子どもの教育費が本格的にのしかかってくる。親の介護も現実味を帯びてくる。まさに「人生の交差点」であり、「お金の正念場」です。
「もちろん、勧誘自体が悪いわけじゃないんだ。むしろ親身にシミュレーションしてくれて、ありがたいんだけど…」と彼は続けます。
「でもさ、**『大学4年間分』を全部保険でガッチリ固めちゃったら、毎月の保険料が高すぎて、今話題のNISAとかに回すお金(余裕資金)が全然生まれなくないか?**って。ウチは、まず『入学金』っていう最初の“壁”を越える貯金を最優先して、余った力でNISAをやるほうが合ってる気がするんだ」
彼のこの言葉に、私は深く共感しました。 NISAが新しくなり、世はまさに「投資」ブーム。しかし、家族を持つ私たち40代にとって、「教育費」という“絶対に必要な貯金”との両立は、最大の悩みどころです。
今日は、その知人の話をヒントに、「大学4年間分」という大きな枠で備えることの問題点と、**「まず入学金・試験費用を確実に貯め、残りの余力を『余裕資金』としてNISA等に回す」**という、現実的な「守り」と「攻め」の戦略について、深掘りしたいと思います。
1. 家族持ち40代が向き合う「お金の3大分類」
本題に入る前に、私たち家族持ちが貯めるべきお金は、大きく3つに分類できるという「基本」を再認識させてください。
- 生活防衛資金(守りのお金)
- 目的:失業、病気、災害など、不測の事態に備えるお金。
- 目安:家族の生活費の半年〜1年分。
- 必須条件:絶対に減らないこと。いつでも引き出せること(流動性)。
- 貯め先:普通預金、定期預金。
- ライフイベント資金(使う時期が決まったお金)
- 目的:数年後〜10年後程度に、ほぼ確実に使うお金。
- 例:教育資金(入学金・試験費用)、車の買い替え費用、住宅ローンの繰上げ返済費用など。
- 必須条件:使う時期までに、確実に目標額が準備できていること(確実性)。
- 貯め先:定期預金、個人向け国債、貯蓄性保険(学資保険など)。
- 余裕資金(増やすためのお金)
- 目的:10年以上先の将来(老後資金など)のために、積極的に増やすお金。
- 条件:上記1と2を確保した上で、最悪目減りしても生活が破綻しないお金。
- 貯め先:NISA、iDeCo、投資信託、株式など。
この3分類、当たり前に聞こえるかもしれません。 しかし、私たちは忙しさや焦りから、この「基本」を見失いがちです。
2. 「保険勧誘」は悪ではない。だが「枠」の大きさは問題だ
まず大前提として、知人が言うように「保険勧誘が悪いわけではない」ことを確認させてください。
特に貯蓄性保険(学資保険など)には、預金にはない強力なメリットがあります。
- 強制力: 意志が弱くても、毎月の引き落としで確実に貯められる。
- 保障: 親に万が一のことがあった場合、以降の保険料が免除されても、満期金は(ほぼ)確実に受け取れる。
これらは「守り」の機能として非常に優秀です。
しかし、問題は「何を」その保険で備えようとするか、その**「枠の大きさ」**です。
「教育費に備えましょう」 「はい」 「大学4年間で私立文系なら400万円必要です」 「そうですね」 「では、400万円を目標に、この保険で積み立てましょう」
この流れで高額な(=4年間分を丸ごとカバーするような)保険を契約してしまうと、どうなるでしょうか。
毎月の保険料が数万円に跳ね上がり、家計は硬直化。 その結果、「将来のために投資(NISAなど)も始めたい」と思っても、家計に「余裕資金」が1円も残らない、という本末転倒な事態に陥りがちです。
さらに、高額な保険は、途中でインフレが進んだり、家計が苦しくなったりしても、元本割れを恐れて柔軟に解約・減額しにくいという「流動性の低さ」も抱えています。
3. 「大学4年間分」という“総額”の呪縛
私たちは「教育費」と聞くと、つい「大学4年間で数百万円」という“総額”に目が行きがちです。
しかし、冷静に考えてみれば、その“総額”を、子どもが18歳になるまでに「現金」で用意しきらなければならない、という決まりはありません。
「4年間の学費」という大きな枠は、
- 奨学金(子ども自身が将来返済する)
- 大学在学中の家計やりくり(4年間の分割払い)
- 子どものアルバイト
- 祖父母からの援助
など、複数の手段で「分割対応」することが可能です。
4. 本当に怖いのは「入学金・試験費用」という短期決戦
では、私たち親が、他の何よりも優先して「現金」で「18歳時点」に備えなければならないものは何か。
それが、知人が「最初の“壁”」と呼んだ、**「大学入学金」と「試験費用」**です。
これらは「4年間の総額」とは全く性質が異なり、「時間的猶予(ゆうよ)のなさ」(※修正箇所)と**「現金一括払い(しかも短期集中)」**という強烈な特徴を持っています。
【ファクト】大学受験の「待ったなし」費用ラッシュ
- 受験料(試験費用)
- 私立大学を数校併願するだけで、20万円〜30万円の現金が「受験シーズン前」に必要になります。
- 入学金(および初年度納付金の一部)
- 国立大学:約28万円
- 私立大学(文系・理系):約25万円〜
最も恐ろしいのが、支払いの「タイミング」です。 私立(滑り止め)に合格し、入学金(約25万円)を払った直後に、本命の国公立(約28万円)に合格した場合、短期間に50万円以上の現金が動きます。しかも、先に払った滑り止めの入学金は返ってきません。
受験料20万 + 入学金25万 = 合計45万円
この「約50万〜80万円」の短期集中支出は、奨学金では間に合いませんし、日々の「やりくり」でカバーできる範囲を超えています。 NISAで準備していて、もし暴落局面に当たったら…? 想像するだけで恐ろしい事態です。
これこそが、私たち40代の親が、投資よりも何よりも優先して「守り」を固めるべき、**「変動させてはいけないお金」(=ライフイベント資金)**なのです。
5. 40代の現実解。「まず入学金」、残りを「NISA」へ
そこで、知人がたどり着いた「現実的な戦略」が輝いてきます。 それは、教育費を「聖域(入学金・試験費用)」と「それ以外(在学中の学費)」に切り分け、家計に「余裕資金」を生み出す戦略です。
ステップ1:【最優先】「ライフイベント資金」を確保する
- 目標: 「入学金+試験費用」として、まず100万〜150万円をゴールにする。
- 手段: このお金は「絶対に変動させてはいけない」お金です。
- 定期預金
- 個人向け国債(変動10)
- 満期を18歳に設定した「小回りのきく貯蓄性保険(学資保険)」
- ポイントは、「400万円」という大きな枠ではなく、「100万円」という短期ゴールで保険などを活用すること。これなら毎月の保険料も抑えられ、家計の柔軟性が保てます。
ステップ2:【同時並行】「生活防衛資金」を確保する
- (これは大前提として、生活費の半年〜1年分の「変動しない貯金」を別で確保します。※セクション1を参照)
ステップ3:【ここで生まれる】「余裕資金」をNISAへ
- ステップ1の「ライフイベント資金」のための積立(例えば月1万円)
- ステップ2の「生活防衛資金」
- これら「絶対に必要な守り」を確保した上で、家計に残ったお金。
それが、**「余裕資金」**です。
この「余裕資金」こそが、NISAやiDeCoといった「攻め(投資)」に回すべきお金なのです。
「大学4年間分(400万円)」を保険で備えようとすれば、月々3万円の積立が必要かもしれません。しかし、「入学金(100万円)」なら月々1万円で済むかもしれません(※単純計算)。 この**差額の「月2万円」こそが、NISAに回せる「余裕資金」**になるのです。
まとめ:保険勧誘は、「我が家の優先順位」を見直すチャンス
40代は、お金の「攻め(投資)」と「守り(貯金)」の両立が求められる、最も難しい時期です。
「一括数百万」や「大学4年間分」という大きなプランの勧誘は、一見、すべての悩みを解決してくれる魔法のように見えるかもしれません。 しかし、本当に家族を守り、将来の資産を築くのは、高額な保険でガチガチに固めた家計ではなく、柔軟な「余裕資金」を生み出せる家計です。
保険勧誘を受けた時こそ、立ち止まって「我が家のお金の3大分類」と「最優先で守るべき“壁”は何か?」を再認識するチャンスです。
知人のように、「ウチはまず『入学金』。4年間分は在学中に考える。だから、この浮いたお金でNISAをやる」という明確な軸を持つこと。
それが、私たち家族持ちの40代が、教育費の不安を乗り越え、NISAの恩恵も受けながら未来を築くための、最も現実的で賢明な「答え」なのだと、私は信じています。
免責事項
本記事は、特定の金融商品の購入を推奨、または勧誘するものではありません。筆者(およびその知人)の経験や一般的な情報に基づき作成されており、読者個人の状況に対するアドバイスではありません。 教育費に関するデータ(受験料・入学金)は、執筆時点での一般的な目安であり、大学や学部、受験方式によって大きく異なります。 金融商品の選択、投資、保険の契約に関しては、ご自身の責任と判断において、専門家にご相談の上、慎重に行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。

