「節約」は疲れるが、「倹約」は心を満たす。40代の私が気づいた、人生を豊かにするお金との「正しい距離感」

「節約」と「倹約」。 この二つの言葉を、あなたは同じ意味だと思っていませんか?

「今日から節約生活だ!」と意気込んでみたものの、スーパーで1円でも安い食材を探し回り、エアコンをつけるのを我慢し、友人とのランチも断る……。そんな日々が続くと、心がギスギスしてくる。

「何のために、こんなに我慢しているんだろう……」

お金は貯まるどころか、ストレスでついコンビニスイーツをカゴに入れてしまい、結果的に支出は変わらない。そんな経験、ありませんか?

私の周囲、40代という人生の折り返し地点を迎えた友人たちを見渡しても、不思議な二極化が起きています。

同じくらいの収入のはずなのに、「いつもお金がないと言い、我慢ばかりで辛そうなAさん」。 そして、決して贅沢はしていないのに、自分の趣味や家族との時間を心から楽しみ、「人生が充実しているように見えるBさん」。

この違いは、一体どこから来るのでしょうか。

私は最近、その答えが「節約」をしているか、「倹約」をしているかの違いにあるのではないかと強く感じるようになりました。

これは単なる言葉遊びではありません。 私たちが思っている以上に根深く、人生の幸福度そのものを左右する「お金の哲学」の違いなのです。

今日は、この似て非なる「節約」と「倹約」について、少し深く掘り下げてみたいと思います。もしあなたが今、「節約疲れ」を感じているのなら、この記事が何か新しい気づきになるかもしれません。


【第1章】「節約」と「倹約」、似て非なる二つの言葉

1-1. 辞書が教える「決定的な違い」

まず、辞書を引いてみましょう。それぞれの言葉は、このように説明されています。

「節約(せつやく)」 むだを省き、切り詰めること。 (例:電気を節約する、時間を節約する)

「倹約(けんやく)」 費用(お金)を切り詰め、むだ遣いをしないこと。 (例:倹約に努める、倹約家)

お気づきでしょうか。 「節約」は、「電気」や「時間」など、お金以外のリソースにも使われる、広い意味での「削減」を指します。

一方で「倹約」は、主に「費用(お金)」に特化して使われる言葉です。

しかし、これだけではAさんとBさんの違いを説明するには不十分です。

1-2. 本当の違いは「目的」と「視点」

本当の違いは、その言葉の裏にある「マインドセット」にあります。

「節約」の矢印は、「支出を減らすこと」そのものに向かいがちです。 「1ヶ月の食費をあと5,000円減らす」「水道光熱費を1,000円下げる」といったように、「削減」が目的化しやすいのです。これを私は「手段の目的化」と呼んでいます。視点は、どうしても「今、この瞬間の支出カット」に集中します。

対して「倹約」の矢印は、**「自分の価値観や未来の目標」**に向いています。 「家族との旅行資金を貯めるために、価値を感じないコンビニ通いをやめる」 「老後の不安をなくし、心穏やかに暮らすために、固定費を見直す」 というように、明確な「目的」が先にあり、その目的達成のために「無駄を省く」という行動を選択します。視点は常に「未来の豊かさ」にあります。

1-3. 「ケチ」とはどう違うのか

ここで「倹約」と混同されやすい、「ケチ」という言葉にも触れておきましょう。

  • ケチ: 出すべき場面、あるいは他人のためになる場面でも、出し惜しみをすること。自分本位な「削減」。
  • 倹約: 自分の価値観に基づき、無駄は省くが、出すべき場面(冠婚葬祭、自己投資、大切な人への贈り物など)では、納得してしっかりと出すこと。「メリハリ」。

「倹約家」は、決して「ケチ」ではありません。むしろ、お金の「価値ある使い方」を知っている人なのです。


【第2章】なぜ「節約」は私たちを疲れさせるのか?

「節約」という言葉には、どこか「我慢」「切り詰める」「苦しい」といったネガティブな響きが伴います。なぜ「節約」は、私たちを疲れさせてしまうのでしょうか。

2-1. 「節約疲れ」の正体

その正体は、「目的不在の我慢」です。

節約は、多くの場合「あれもダメ」「これもダメ」という「禁止」の連続です。人間の意志力(我慢する力)は有限です。明確な目的がないまま我慢だけを続けていると、意志力は消耗し、必ず限界が訪れます。

そして、我慢の反動で、大きな「浪費」をしてしまうのです。 「こんなに頑張ったんだから、これくらい良いだろう」と、高額な洋服を買ってしまったり、ストレス発散で暴飲暴食してしまったり…。これでは、何のために節約していたのか分かりません。

目的が「貯金額」という無機質な数字だけになると、日々の生活から「彩り」や「楽しみ」が確実に奪われていきます。これが「節約疲れ」のメカニズムです。

2-2. 私の知人Aさんの「残念な節約」エピソード

ここで、冒頭でお話しした私の知人、Aさんの話をさせてください。(もちろん、特定できないように内容は変えています)

Aさんは真面目な人で、いつも「節約しなきゃ」が口癖でした。

ケース1:食費の過度な削減 彼女は「1円でも安いもの」を求め、雨の日も風の日も、特売の卵のために自転車でスーパーを3軒ハシゴしていました。 その結果、何が起きたか。

往復で1時間以上かかることもあり、その時間(自分の時給)を考えれば、近所のスーパーで買った方がよほど「経済的」でした。 さらに、彼女は「安いから」という理由で、栄養価の低い加工食品や、見切り品の野菜ばかりを買うようになりました。その結果、体調を崩しがちになり、結局は通院費や薬代という、もっと大きな「支出」を生むことになってしまったのです。

ケース3:人間関係の断捨離 Aさんはまた、「お金がかかるから」という理由で、長年の友人とのランチや、会社の同僚との飲み会をすべて断るようになりました。 「ランチで1,500円なんて、ありえない。お弁当を持っていけば0円なのに」と。

確かに、目先の数千円は浮いたかもしれません。 しかし、彼女が失ったものは何でしょうか。 友人との他愛ないおしゃべりで得られる「心の安定」、同僚との交流で得られる「仕事の有益な情報」や「信頼関係」。それらは、1,500円では到底買えない、 valuable(価値ある)な資産だったはずです。

Aさんは、お金を節約する代わりに、自分の「時間」「健康」「人間関係」という、お金よりも大切な資産を切り売りしていたのです。

2-3. 「安物買いの銭失い」という罠

Aさんのように「節約」モードに入ると、私たちの判断基準は「価格」ただ一つになりがちです。

「安いから」という理由で買った洋服は、数回の洗濯でヨレヨレになり、結局次のシーズンには着られなくなる。 「とにかく安い」家電を選んだら、すぐに壊れて修理費がかさみ、結局高くつく。

これぞ、ことわざの言う「安物買いの銭失い」です。 これは「節約」ではなく、ただの「浪費」に他なりません。


【第3章】なぜ「倹約」は心を満たすのか?

一方で、「倹約」を実践している人は、不思議と幸せそうです。彼らは我慢しているようには見えず、むしろ自分の人生を謳歌しているように見えます。

3-1. 「倹約」の根幹は「自分の価値観」

「倹約」の根幹にあるのは、「節約」のような「我慢」や「ルール」ではありません。 それは、**「自分にとって本当に大切なものは何か?」**という、確固たる「価値観」です。

倹約家は、他人や世間の価値観(「流行っているから買う」「みんなが持っているから欲しい」)に流されません。 彼らは、お金を使う前に、常に自問しています。 「この支出は、私の人生を豊かにしてくれるだろうか?」 「この支出は、私の未来の目標に貢献してくれるだろうか?」

この「価値観」というフィルターを通すことで、彼らにとっての「無駄遣い」が明確になります。だから、無駄を省くことにストレスを感じないのです。それは「我慢」ではなく、自分らしい人生を送るための合理的な「選択」だからです。

3-2. 私の知人Bさんの「見事な倹約」エピソード

ここで、もう一人の知人、Bさんの話をご紹介します。

Bさんは、普段の生活はとても質素に見えます。 喉が渇いても、自動販売機やコンビニで飲み物を買うことは滅多になく、いつもマイボトルを持ち歩いています。ランチも手作りのお弁当持参です。

一見すると、Aさんと同じ「節約家」のように見えるかもしれません。 しかし、彼のお金の使い方は、Aさんとは決定的に違いました。

ケース1:メリハリのある支出(使うときは使う) Bさんは、年に一度の家族旅行には、一切のお金を惜しみません。 「モノはいつかなくなるけれど、家族と過ごした幸せな記憶は、一生の財産になるから」と彼は言います。 また、友人の結婚式のご祝儀や、お世話になった人への贈り物は、相場よりも少し多めに包むことを心がけているそうです。

彼は「お金は、幸せな記憶や、良い人間関係と交換するためにある」という哲学を持っています。だからこそ、日々のどうでもいい支出(コンビニの飲み物など)は徹底してカットできるのです。

ケース2:モノ選びの基準(長く使う) Bさんが身につけている靴や時計、使っている家具は、どれも一見して「良いモノ」だと分かります。 彼は「安さ」ではなく「品質」でモノを選びます。

「この靴は5万円したけれど、きちんと手入れをすれば10年以上履ける。1年あたり5,000円だ。それに、良い靴は履いているだけで気分が上がるし、足も疲れない。1万円の靴を毎年買い替えるより、よほど合理的で豊かだろう?」

初期費用は高くても、長く愛用できるものを選ぶ。 結果的にコストパフォーマンスが良くなるだけでなく、何より「お気に入りのモノだけに囲まれた生活」が、彼の心の満足度を高く維持しているのです。

3-3. 「倹約」は未来への「投資」

もうお分かりかと思いますが、「節約」が支出の「削減」であるのに対し、「倹約」は**「価値あるものへの支出(=投資)」**という側面を強く持っています。

  • 自己投資: 自分のスキルを高めるための本や学習費用。
  • 健康投資: 少し高くても、安全で栄養価の高い食材や、運動習慣。
  • 経験投資: 旅行や観劇など、自分の見聞を広める体験。
  • 関係投資: 大切な人との時間や、贈り物。

これらはすべて、未来の自分をより豊かにするための「賢い支出」です。 「倹約」とは、無駄な支出を徹底的に削ぎ落とし、そうして生み出した大切なお金を、自分の価値観に沿った「投資」に振り向けていく、極めて戦略的な生き方なのです。


【第4章】「節約家」から「倹約家」へ。明日からできる3つのステップ

では、私たちも「節約疲れ」から脱却し、心を満たす「倹約家」になるには、何から始めればよいのでしょうか。 難しいことはありません。明日からできる3つのステップをご紹介します。

4-1. ステップ1:自分の「価値観(お金を使うと幸せなこと)」を書き出す

まずやるべきは、家計簿をつけることではありません。 「我慢リスト」を作るのではなく、**「幸せリスト」**を作ることです。

あなたが「これにお金を使っている時は、本当に幸せだ」と感じることは何ですか? ノートに10個、書き出してみてください。

(例:家族との外食、友人と気兼ねなく飲むお酒、質の良いコーヒー豆、子供の教育費、大好きなアーティストのライブ、趣味の道具の手入れ、肌触りの良い寝具)

これが、あなたが「お金をかけるべき」と判断している価値観の源泉です。 このリストにある支出は、「削減」の対象にしてはいけません。むしろ、ここにお金を使えるようにするために、他の無駄を省くのです。

4-2. ステップ2:支出を「消費・浪費・投資」に仕分ける

次に、直近1ヶ月の支出を思い出し、「消費・浪費・投資」の3つに仕分けてみましょう。

  • 消費: 生きるために必要な、妥当な支出。(家賃、食費、水道光熱費など)
  • 浪費: 価値観に合わない、無駄な支出。(ストレス発散の衝動買い、惰性で見ているサブスク、付き合いだけの飲み会など)
  • 投資: ステップ1の「幸せリスト」や、未来の自分を豊かにする支出。(自己投資、健康投資、経験投資など)

ここで真っ先に削減すべきは「浪費」です。 「消費」は、質を落とさずに安くできないか工夫する(例:格安SIMへの乗り換え)。 そして「投資」は、聖域として守るか、むしろ増やすことを検討します。

4-3. ステップ3:「使わないルール」より「使うルール」を決める

「節約」は「〇〇は買わない」という「禁止ルール」で自分を縛ります。 「倹約」は「〇〇になら、いくらまで使って良い」という**「許可ルール」**で自分を導きます。

例えば、「カフェ代は月5,000円まで」と予算を決める。 その予算内であれば、いつ、どんな高級なコーヒーを飲んでもOKです。 大切なのは、お金を使うことに対して「罪悪感」ではなく、「これは自分の価値観に沿った、OKな支出だ」という「納得感」を持つことです。

この「納得感」こそが、我慢とは無縁の「倹約」を続ける原動力になります。


【まとめ】

「節約」は、お金に振り回され、支出を減らすことだけを考える生き方です。 「倹約」は、お金を使いこなし、自分の価値観で人生をデザインする生き方です。

40代は、人生の折り返し地点。 体力や時間といったリソースが有限であることを、身をもって感じ始める時期でもあります。

だからこそ、これからの人生で使うお金は、「我慢」の対価ではなく、自分の幸せのための「選択」の結果であるべきではないでしょうか。

「安いから」ではなく、「価値があるから」選ぶ。 「我慢する」のではなく、「未来のために、今は選ばない」と決める。

「倹約」という名の、自分軸で生きるための「賢いお金の使い方」を身につけ、通帳の数字の残高だけでなく、あなたの「心の残高」も、これから一緒に増やしていきませんか。


【免責事項】

本記事は、特定の金融行動やライフスタイルを推奨するものではありません。お金に関する考え方や価値観は多様であり、本記事の内容は筆者の個人的な見解や、一般的な情報に基づいた一つの参考としていただくことを目的としています。実際の支出や投資に関する判断は、ご自身の責任において行ってください。

1 Comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です