【企業分析マスター講座 第4回】ROEとROAを使いこなし、「稼ぐ力」の本当の効率性を見抜く

皆さん、こんにちは。

これまでの講座で、企業の「稼ぐ力(利益)」「体力(財産)」「血液の流れ(現金)」を読み解く方法を学んできました。これで一安心…と思いきや、こんな疑問を感じたことはありませんか?「利益が10億円のA社と、1億円のB社。当然A社の方がスゴイ会社だと思っていたら、株価はB社の方がぐんぐん上がっている…」

その理由は、投資家が「利益の額」だけでなく、**「稼ぐ効率」**を厳しく見ているからです。実は、A社は1兆円の資産を使って10億円の利益しか生んでいないのに対し、B社はたった10億円の資産で1億円の利益を生んでいるかもしれません。どちらがより「経営上手」かは一目瞭然ですよね。

多くの投資家が、この「効率性」というモノサシを知らないために、実は非効率な経営をしている「見かけ倒しの利益額が大きい企業」に投資してしまい、もっと賢く稼いでいる優良企業の株価上昇を逃すという、大きな機会損失をしています。

しかし、ご安心ください。この記事を読み終える頃には、あなたも「ROE」と「ROA」という2つの強力なモノサシを使いこなし、プロと同じ視点で企業の「稼ぐ効率」を完璧に見抜けるようになっているでしょう。

本論:ROEとROAは企業の「経営効率」を示す成績表だ

理論解説パート:「株主目線」と「会社目線」の効率性を知る

企業の「稼ぐ効率」を測る上で、絶対に欠かせない2つの指標があります。それが**ROE(自己資本利益率)ROA(総資産利益率)**です。この2つをセットで見るのがプロのやり方です。

1. ROE (Return On Equity:自己資本利益率)

  • 一言でいうと?: 株主が出したお金(自己資本)を使って、どれだけ効率よく利益(純利益)を生み出したかを示す指標です。
  • 比喩: これは**「株主目線の利回り」**です。あなたが銀行に100万円の「元手(自己資本)」を預けて、1年間で1万円の「利息(純利益)」がつけば、利回りは1%ですよね。ROEが10%なら、株主の元手100万円に対して10万円の利益を生み出した、という意味になります。
  • 計算式: $ROE (\%) = \frac{\text{親会社株主に帰属する純利益}}{\text{自己資本}} \times 100$
  • 専門家の視点: ウォーレン・バフェットのような伝説的な投資家は、このROEが一貫して高い企業を好みます。なぜなら、ROEが高い企業は「株主のお金を効率よく増やしてくれる、経営上手な会社」である可能性が高いからです。一般的に、ROEが10%以上あれば優良な企業である一つの目安とされます。

2. ROA (Return On Asset:総資産利益率)

  • 一言でいうと?: 会社が持つ「全て」の財産(総資産=借金+自己資本)を使って、どれだけ効率よく利益(純利益)を生み出したかを示す指標です。
  • 比喩: これは**「会社全体の効率性」**です。ROEが「家の頭金(自己資本)に対するリターン」だとすれば、ROAは「住宅ローン(負債)も含めた家全体(総資産)で、どれだけ効率よく儲けを生み出しているか」を見る指標です。
  • 計算式: $ROA (\%) = \frac{\text{親会社株主に帰属する純利益}}{\text{総資産}} \times 100$
  • 専門家の視点: ROAは、その企業が借金も含めた全ての資産をどれだけうまく活用して本業のビジネスを回しているか、その「ビジネスモデルそのものの効率性」を示します。一般的に5%以上あれば優良とされることが多いですが、業種によって大きく異なるため注意が必要です。

【重要】ROEとROAをセットで見る「本当の理由」

ここで、多くの個人投資家が見落としがちな、非常に重要なポイントをお伝えします。それは、**「ROEだけを見てはいけない」**ということです。

なぜなら、ROEは「借金(負債)」を増やすことでも、見かけ上、高くすることができるからです。これを**「財務レバレッジ(てこの原理)」**と呼びます。

例えば、100万円の自己資本で10万円の利益を出す会社(ROE 10%)が、900万円の借金をして総資産を1,000万円にし、同じように10万円の利益を出したとします。この場合、株主目線のROEは変わらず10%ですが、会社全体の効率性(ROA)はたったの1%($\frac{10}{1000}$)です。

もし、この会社が借金を活用して利益を20万円に増やせたら、ROEは20%($\frac{20}{100}$)に跳ね上がります。しかし、ROAは2%($\frac{20}{1000}$)のままです。借金に依存してROEだけが高い企業は、好景気の時は良いですが、不景気になって利益が減ると、借金の利息が重くのしかかり、一気に経営が苦しくなるリスクを抱えています。

ですから、私たちはROE(株主目線の効率)とROA(会社全体の効率)を必ずセットで見て、**「ROAもしっかりと高い上で、ROEも高い」**という、本質的に稼ぐ効率の良い企業を見つけ出す必要があるのです。これは専門家の間では常識ですが、ぜひ覚えておいてください。

実践分析パート:イオン株式会社の「稼ぐ効率」を診断する

それでは、この強力な2つのモノサシを使って、「イオン株式会社」の稼ぐ効率を解き明かしていきましょう。

まず、決算短信から必要な数値(宝)を探し出します。

  • 親会社株主に帰属する中間純利益 (累計): 4,048百万円 11
  • 総資産 (中間期末): 14,498,887百万円 222
  • 自己資本 (中間期末・参考): 1,204,222百万円 333

これらの数値を使って、この中間期(6ヶ月間)の効率性を計算してみましょう。

イオン株式会社の収益性分析

項目計算式結果
ROA (中間期)$\frac{4,048百万円}{14,498,887百万円} \times 100$約 0.028%
ROE (中間期)$\frac{4,048百万円}{1,204,222百万円} \times 100$約 0.34%

(出典:イオン株式会社 2026年2月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結) 44444444

【分析①】驚くほど低いROEとROAの数値

さて、この結果を見てどう思いましたか?「ROE 0.34%、ROA 0.028%…?一般的な目安(年率ROE 10%)と比べて、あまりにも低すぎないか?」と驚かれたかもしれません。

その通りです。もしこの数字だけを見て「イオンは全然効率的に稼げていないダメな会社だ」と結論付けてしまったら、それは大きな間違いを犯すことになります。数字が極端に良かったり悪かったりする時こそ、その裏側にある「物語」を探るのが、私たち分析家の仕事です。

【分析②】純利益が低かった「理由」を思い出す

ここで、第1回の冒険(損益計算書の分析)を思い出してください。イオンの純利益は、なぜ低く抑えられていたでしょうか?

そうです。決算短信には「総合金融事業における事業ポートフォリオ見直しに伴う特別損失の発生等により」と書かれていましたね 5。つまり、この中間期は、将来のために不採算部門を整理するなどの**「一時的な痛み(特別損失)」**を計上したため、最終的な純利益がたったの40億48百万円 66 になってしまったのです。

一方で、本業の儲けである「営業利益」は1,181億29百万円 77、経常利益も1,064億68百万円 88と、いずれも過去最高益を更新するほど絶好調でした 9

この物語が意味するのは、今回算出したROE 0.34%とROA 0.028%という数値は、イオンの「一時的な体調不良」を示しているに過ぎず、企業本来の「稼ぐ効率の実力」を表したものではない、ということです。

【分析③】ROEとROAの「差」が語るビジネスモデル

ここで分析を終えてはいけません。注目すべきは、ROA(約0.03%)に対してROE(約0.34%)が約12倍も高いという「差」です。

この大きな差こそ、第2回の冒険(貸借対照表の分析)で学んだ、イオンのビジネスモデルの核心を示しています。イオンは、銀行業(総合金融事業)を抱えているため、他人のお金(負債)を膨大に集めてビジネスをしています 10

つまり、イオンは意図的に**「高い財務レバレッジ(てこ)」**を効かせている企業なのです。

このレバレッジは、現在は一時的な損失のせいで純利益が低く、ROEも低迷していますが、もし本業の好調さ(過去最高の営業利益 11)が、この一時的な損失の解消後に純利益に反映され始めたらどうなるでしょうか?

その時、この高いレバレッジは爆発的な力を発揮し、ROE(株主目線の利回り)を劇的に高める可能性を秘めているのです。これが、イオンのROEとROAのバランスから読み取れる「未来への期待の物語」なのです。

まとめ:今日からあなたも「稼ぐ効率」の達人へ

本日の冒険で、企業の利益の「額」だけでなく、「質」と「効率」を見抜くための強力な武器を手に入れることができました。ROEとROA。この2つを使いこなせば、あなたの企業分析は格段に深まります。

【本日の冒険のまとめ】

  • **ROE(自己資本利益率)**は「株主目線の利回り」、**ROA(総資産利益率)**は「会社全体の効率性」を示す。
  • ROEが高くてもROAが低い企業は、「借金(レバレッジ)」で効率をかさ上げしている可能性があり、リスクに注意が必要。
  • イオンは一時的な特別損失でROE/ROAは低迷しているが、本業は絶好調 121212。むしろROEとROAの大きな差は、業績回復時に高い株主リターンを生む可能性を秘めた「高いレバレッジ経営」の証拠である。

それでは、恒例の「ベビーステップ」です。今日の課題もとても簡単ですよ。

【本日の課題】あなたがいつも使っているサービスや、好きな商品の会社の名前で「〇〇株式会社 ROE」と検索してみるだけです。そして、出てきた数字が10%と比べて高いか、低いか。それだけを確認してみてください。

その数字が、あなたの会社への見方を少し変えてくれるかもしれません。

投資判断

イオン株式会社への投資判断は、これまでの分析を踏まえ**「7/10」**を維持します。今回のROEおよびROAの数値は、一時的な特別損失の影響を強く受けたものであり 131313、企業本来の実力を示しているとは言えません。むしろ、本業の営業利益が過去最高であること 14、そして高い財務レバレッジ構造が、将来的に純利益が正常化した際に高いROE(株主資本の効率性)をもたらす可能性があることを考慮すると、引き続きポジティブな視点を持てると判断します。

次回予告

さて、企業の「稼ぐ効率」まで見抜けるようになりました。しかし、いくら効率よく稼げていても、その会社の「守りの硬さ」、つまり財務的な安全性が盤石でなければ、安心して長期投資はできませんよね。

第2回では「自己資本比率」という大きな視点での体力を見ましたが、それだけでは「明日、突然の支払いに困らないか?」といった短期的な支払い能力までは分かりません。

次回、【安全性分析】自己資本比率と流動比率で、企業の「守りの硬さ」を徹底解剖します。企業の「守り」の側面を完璧にマスターし、あなたの投資ポートフォリオをより強固なものにしましょう。お楽しみに。


免責事項

本記事は、企業分析に関する情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。株式投資は、元本を割り込むリスクを伴います。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、筆者およ

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