
「世の中の常識は、誰かの非常識」
そんな言葉を聞いたことがあります。私たちが当たり前だと思っていること、皆がやっているから正しいと思っていることが、実は本質からズレているかもしれない。
先日、旧知の仲である40代の知人と話していた時、ふと「新NISA」の話題になりました。 「周りも結構始めたみたいだけど、あれ、本当にみんな続けてるのかな?」
その素朴な疑問が、私の頭の中で一つの法則と結びつきました。 それは、ビジネスや自然現象など、あらゆる場面で顔を出す**「パレートの法則(80:20の法則)」**です。
もしかすると、新NISAという「資産形成の航海」においても、この法則が働いているのではないでしょうか。 つまり、始めた人のうち、本当に目的地(=長期的な資産形成)にたどり着けるのは「2割」だけで、残りの「8割」は途中で挫折してしまうのではないか?
もしそうだとしたら、その差は一体どこで生まれるのでしょう。 今日は、この「新NISAとパレートの法則」という少し不都合な仮説について、そして私たちが挫折する「8割」ではなく、継続できる「2割」側に入るための「非常識な」処方箋について、考えてみたいと思います。
第1章:なぜ「常識」があなたの投資を邪魔するのか?
投資の世界における「常識」とは、一体何でしょうか。
- 「みんなが買っている人気ファンドだから、大丈夫だろう」
- 「ニュースで暴落と騒いでいるから、怖い。ひとまず売っておこう」
- 「SNSで『爆益!』と見たから、短期で儲かる銘柄に乗り換えよう」
これらは非常に「常識的」な判断に見えます。しかし、その「常識」の正体は、多くの場合**「集団心理(群集心理)」**に他なりません。
人は、周りと同じ行動を取ることで安心感を得ます。自分で難しい判断を下す責任から逃れたい、という心理も働くでしょう。
しかし、こと「長期の資産形成」において、この「常識」に従うことは、致命的な「非常識(=不合理)」な結果を招くことが多々あります。
私の知人にも、リーマンショックやコロナショックの時、「もうダメだ、世界が終わる」という当時の「常識的な」空気感に耐えきれず、持っていた資産をすべて投げ売ってしまった人がいます。
彼らが売ったのは、決まって価格が底を打った大底圏でした。 そして、その後の力強い回復局面(V字回復)の恩恵を、一切受けることができませんでした。彼らは「常識」に従った結果、資産を大きく減らしてしまったのです。
長期積立投資の原則は「安く買って、高く売る」こと。 もっと言えば、新NISAのような積立投資は「買い続ける」ことが大前提です。 しかし、集団心理という名の「常識」は、私たちに「高く買って(ブームの頂点)、安く売る(パニックの底)」という、原則とは真逆の行動を強いてくるのです。
第2章:第一の壁:そもそも「行動する人」が2割という現実
私が「8割の人が挫折するのではないか」という仮説を知人に話したところ、彼はさらに厳しい現実を示すデータを見せてくれました。
それは、ある著名な金融系YouTubeチャンネル(リベラルアーツ大学)が発信していた情報です。それによると、新NISAのブームで投資家が増えたとはいえ、「現在進行形で投資をしている」日本人は、わずか15%程度に過ぎないというのです。 (※過去に経験あるが今はやっていない層が40%以上いる、という点も衝撃的です)
「理解すること」と「実際に行動すること」の間には、とてつもなく大きな壁がある。動画の指摘は、まさにそれでした。
この「行動の壁」は、金融庁の公式データからも伺えます。 金融庁の発表(2025年3月末時点)によると、NISA口座の総開設数は約2,647万口座。これは、日本の成人人口(約1億400万人と仮定)の約25%に過ぎません。
つまり、**口座を開設しただけでも、日本全体で見れば「上位4分の1」**なのです。
さらに深刻なのは、これはあくまで「口座を開設した数」であること。この中には、口座は作ったものの実際には一円も投資していない「幽霊口座」も相当数含まれていると推測されます。 そう考えると、「実際に投資行動を起こしている人=15%」という数字は、非常に現実味を帯びてきます。
パレートの法則は、私たちが思っていたよりもずっと手前の段階——**「行動するか、しないか」**の時点で、すでに容赦なく働いていたのです。 8割の人は、そもそも「挫折」する以前に、スタートラインにすら立っていないのかもしれません。
この記事を読んでいるあなたは、少なくともこの「第一の壁」を越え、行動を起こした、あるいは起こそうとしている「2割(あるいは15%)」側の人である可能性が非常に高いと言えます。
第3章:第二の壁:「始めた人」の継続率は高いが…
では、その「第一の壁」を突破した「行動する2割」の人たちは、その後どうしているのでしょうか。 ここで、知人は興味深いデータをさらに見せてくれました。
(データ1:継続意向) オリコンが2025年2月に発表した「新NISA利用実態データ」によると、新NISA利用者のうち「今後も継続したい」と答えた人は、つみたて投資枠・成長投資枠ともに**約88%**にも上ったそうです。9割近い人が『続ける』と強い意思表示をしています。
(データ2:実際の売却行動) さらに、野村アセットマネジメントが2025年6月に発表した調査(同年4月実施)では、2025年に商品を売却した人は「つみたて投資枠」でわずか9%、「成長投資枠」でも**13%**に留まっています。
(データ3:下落局面での行動) 極め付けは、2024年夏に起きた一時的な大幅下落の局面です。NTTデータ・エービックの調査(2025年3月実施)によれば、「売却した」人は計**7.3%**しかおらず、約75%が「何もしなかった」、12.9%が「追加投資した」というのです。
これらのデータから分かるのは、2025年11月現在、「第一の壁」を越えた新NISA利用者の大半は「挫折」しておらず、むしろ非常に冷静に投資を継続しているという事実です。
「なんだ、じゃあパレートの法則なんて当てはまらないじゃないか。ほとんどの人が続けられるんだ」——そう思うかもしれません。
しかし、知人は首を横に振りました。
「確かに、この1〜2年のデータは素晴らしい。日本人の投資リテラシーが上がった証拠だろう。…しかし、我々が本当に試されるのはこれからだ」と。
なぜなら、新NISAが始まってからの約2年間は、幸いにも市場全体が比較的堅調でした。前述のオリコンの調査でも、利益が出ている人が多い一方で、「元本割れ」している人は1割強に留まっています。
私や知人が経験したような、リーマンショックやコロナショックのような**「本当のパニック相場」**——自分の資産がテレビのニュース速報とともに数ヶ月で30%、40%と溶けていくような恐怖を、まだ多くの利用者は経験していません。
「継続意向9割」という数字は、いわば「まだ嵐が来ていない、穏やかな航海」でのアンケート結果なのです。
本当の嵐が来た時、その時こそ「行動した人」の中で再びパレートの法則が働き、**「8割が逃げ出し、2割が船に残る」**という「第二の壁」が牙を剥くのではないか。私たちは、そう懸念しています。
だからこそ、市場がまだ穏やかな今のうちに、次の章で話す**「継続できる2割が持つマインドセット」**を、単なる知識ではなく、血肉として身につけておく必要があるのです。
第4章:継続する「2割」が持つ「非常識な」マインドセット
では、挫折する8割の人が囚われている「常識」と、継続できる2割の人が密かに実践している「非常識(=本質)」を具体的に対比させてみましょう。 あなたが「2割」側に入るためのヒントがここにあります。
非常識1:市場(株価)を「見ない」
- 8割の「常識」: 毎日、あるいは日に何度も証券口座にログインし、資産の増減に一喜一憂する。SNSで「#新NISA」と検索し、他人の成果と自分の成果を比べる。
- 2割の「非常識(本質)」: 積立設定をしたら、基本的に「忘れる」。アプリを消す人さえいます。彼らは、日々の株価(市場)に投資しているのではなく、「未来の時間」に投資していることを知っています。投資は「育てる」ものであり、「眺める」ものではないのです。
非常識2:暴落を「歓迎」する
- 8割の「常識」: 暴落は恐怖の対象。資産がみるみる減っていく画面を見てパニックになり、これ以上の損失を避けようと「常識的」に売却(狼狽売り)してしまう。
- 2割の「非常識(本質)」: 暴落を「絶好の買い場(バーゲンセール)」と捉える。冷静に、あるいは少しワクワクしながら、いつもと同じ金額で「より多くの口数」を買えることを歓迎します。 これは、積立投資の最大の武器である**「ドルコスト平均法」**が最も効果を発揮する瞬間だと理解しているからです。彼らは「雨が降ったからこそ、作物が育つ」ことを知っています。
非常識3:「なぜ投資するか」だけを考える
- 8割の「常識」: 「何を買うか(どのファンドが儲かるか)」ばかりを気にする。専門家の推奨銘柄や、SNSで流行っているものにすぐ飛びつく。手段(どのファンドか)が目的化してしまっている。
- 2割の「非常識(本質)」: **「自分はなぜ投資するのか(目的)」**を常に問い続けています。「20年後に子供の大学資金として〇〇万円必要だから」「65歳時点でゆとりある老後を送るために〇〇万円作りたいから」。 この「目的(出口)」が明確だからこそ、途中の嵐(暴落)が来ても、「手段(積立)」がブレないのです。彼らにとってファンド選びは、目的地に行くための「乗り物」を選ぶ程度の話でしかありません。
第5章:あなたが「2割」側に入るための具体的な行動
パレートの法則を逆手に取りましょう。 私たちが目指すのは、挫折する「8割」の行動パターンを徹底的に避け、「2割」の合理的な行動を習慣化することです。
2025年現在、データ上は「9割の継続層」にいるあなたも、本当の嵐に備え、この行動を今すぐ実践してください。
1. 「自動化」であなたの意思を排除する 人間の意思は、市場の熱狂や恐怖の前では驚くほど脆いものです。ならば、最初から意思が介在する余地をなくせばいいのです。 新NISAの積立設定(毎月〇日に〇万円)を一度設定したら、あとは銀行口座にお金を入れておくだけ。これが最強の「忘れる」技術であり、「非常識1:市場を見ない」を実践する第一歩です。
2. 「出口(目的)」から逆算して、安心する あなたに必要なのは「今、儲かっているか」ではなく、「〇〇年後に、〇〇万円になっているか」です。 金融庁の「資産運用シミュレーション」などを使って、自分の積立額と想定利回り(堅めに3〜5%で十分です)で、将来いくらになるかを一度だけ計算してみてください。 目的達成の道筋が見えれば、途中の小さな石(日々の値動き)に躓くことはなくなります。これが「非常識3:目的を考える」の実践です。
3. 「ノイズ」を遮断し、「本質」と繋がる SNSやテレビが流す短期的な投資情報は、あなたの不安を煽る「ノイズ」でしかありません。 それよりも、信頼できる投資の古典(名著)を1冊読む、あるいは長期投資の本質を理解している知人(もし身近にいれば)とだけ話す方が、よほど有益です。 もし周りにそういう人がいなければ、無理に仲間を探す必要はありません。「非常識2:暴落を歓迎する」マインドを持てるよう、投資の歴史やドルコスト平均法の本質を学び、あえて「孤独」を受け入れる強さも時には必要です。
結論:常識の「8割」から、本質の「2割」へ
新NISAの成功は、結局のところ、世間の「常識」という名のノイズや群集心理に惑わされず、いかに「非常識(=合理的で、本質的な)」行動を淡々と続けられるかにかかっています。
まず、日本全体で見れば、行動を起こしただけでも「上位2割」の優秀な層に入っています。
そして2025年時点のデータは、その「行動した人」の多くが「継続」という正しいスタートを切れたことを示しています。これは本当に喜ばしいことです。
しかし、本当の勝負はこれからです。 市場が好調なうちに「常識」に浮かれるのではなく、暴落を「歓迎」できるほどの「非常識(本質)」を身につけること。
「みんながやっているから」安心するのではなく、 「みんなが売っているから」こそ買い向かう。
パレートの法則が示す「8割の挫折」は、私たちに突きつけられた残酷な未来予測かもしれません。 しかし同時に、それは私たちが目指すべき「2割」の姿を明確に教えてくれる、希望の道しるべでもあります。
この記事を読んでくださったあなたは、本当の嵐が来た時、どちら側に立ちたいですか?
世間の「常識」に流される「8割」に転落しますか? それとも今日から、本質を見据える「2割」側であり続けるための準備を始めますか?
【免責事項】 本記事は、特定の金融商品や投資行動を推奨するものではありません。投資に関する決定は、ご自身の判断と責任において行うようお願いいたします。 記事内で言及されている「パレートの法則」に関する仮説は、筆者(知人含む)の私見であり、統計的な裏付けに基づくものではありません。 また、記事中で引用した各種調査データは、2025年11月時点で筆者が確認した情報に基づいています。最新の情報とは異なる可能性がある点にご留意ください。

