第5回 読書の技法(2):賢い本の選び方、付き合い方

皆さん、こんにちは!

皆さんの部屋の本棚や机の上には、「いつか読もう」と思って買ったまま、手つかずになっている本はありませんか? 話題になっていたから、表紙がカッコよかったから、なんとなく面白そうだと思って買ったけれど、結局読まずに積まれていく本たち…。そう、多くの読書家が悩む「積読(つんどく)」の問題です。

あるいは、「そもそも、世の中にたくさん本がありすぎて、どれを読んだらいいのか分からない」という悩みを持つ人もいるでしょう。

本との出会いは、人との出会いによく似ています。無数にいる人々の中から、生涯の親友となる人を見つけ出すように、本の洪水の中から、自分の人生を豊かにしてくれる「一生モノの一冊」を見つけ出すには、少しだけ技術が必要です。

300年前に生きたアイザック・ワッツもまた、どの本を手に取り、どう付き合うべきか、その選択の重要性を説いていました。今回は、彼の知恵を借りながら、「積読」を減らし、あなたを本当に成長させてくれる本と出会うための具体的な方法を探っていきましょう。

本の「顔」を読もう – 5分でできる目利き術

皆さんは、お店でジュースを買う時、パッケージの裏を見て成分表示やカロリーを確認しますよね。本を選ぶ時も、それと同じように、中身を少しだけ「下見」することが、失敗を減らすための重要なステップになります。

ワッツは、本の価値を判断するために、いきなり最初から律儀に読み始めるのではなく、

「表紙、序文、目次を確認し、いくつかの章を注意深く読むことで価値を判断する」ことを勧めています。この教えは、忙しい現代の私たちにとって、まさに「タイムパフォーマンス最強」の読書術と言えるでしょう。

これを現代の中高生向けにアレンジした**「5分間ブック・プレビュー術」**を紹介します。書店や図書館で、気になる本を手に取ったら、この5つのステップを試してみてください。

  1. 【30秒】タイトルと表紙(第一印象) まずは直感です。タイトルに心惹かれますか? 表紙のデザインは好きですか? 人が相手でも「第一印象」が大切なように、本との出会いもインスピレーションから始まります。ここで「なんか違うな」と感じたら、無理に次に進む必要はありません。
  2. 【1分】帯と裏表紙(自己紹介) 本の帯や裏表紙には、その本の内容を数行で要約した「キャッチコピー」や「あらすじ」が書かれています。これは本の「自己紹介」です。この本が一番何を伝えたくて、どんな読者に読んでほしいのかが、ここに凝縮されています。
  3. 【1分】「はじめに(序文)」と「おわりに(あとがき)」 少し面倒に感じるかもしれませんが、この部分は著者の「本音」が最も表れる場所です。なぜこの本を書こうと思ったのか、どんな想いを込めたのか。「はじめに」を読んで著者の情熱に共感できれば、その本を最後まで楽しめる可能性はぐっと高まります。
  4. 【30秒】目次(設計図) 目次は、本の全体像がわかる「設計図」です。どんなテーマが、どんな順番で語られているのかをざっと眺めてみましょう。「あ、この章は特に面白そうだな」「自分の知りたかったことが書いてありそうだ」と思える項目が見つかれば、それはあなたにとって「当たり」のサインです。
  5. 【2分】パラパラ拾い読み 最後に、目次で気になった章を2〜3ページ、パラパラと拾い読みしてみましょう。文章の雰囲気(語り口)は自分に合っていますか? 使われている言葉は難しすぎませんか? 会話するようにスラスラ読めるか、それとも辞書が必要そうか。ここで相性を最終チェックします。

この合計5分間のプレビューを行うだけで、その本が今の自分にとって本当に必要な一冊なのかを、驚くほど正確に見極めることができます。衝動買いによる「積読」を劇的に減らし、貴重な時間とお金を、本当に価値ある本だけに使えるようになるのです。

「食わず嫌い」をなくそう – 読書の幅を広げる冒険

自分に合う本を見極める技術が身につくと、今度は別のワナに陥ることがあります。それは、居心地の良い、自分の好きなジャンルの本ばかりを読んでしまう「食わず嫌い」の状態です。

ワッツは、本を判断する際に**「自分の原則との一致は価値の試金石ではない」**と鋭く指摘しています。つまり、「自分の考えと同じことが書かれているから良い本だ」と決めつけたり、逆に「自分の知らないこと、興味のないことだから価値がない」と切り捨てたりしてはいけない、ということです。

いつも同じ友達とばかり遊んでいると、新しい発見がないのと同じように、読書も好きなジャンルに閉じこもっていると、思考が偏り、成長が止まってしまいます。時には、勇気を出して全く知らない世界に飛び込んでみることが、思わぬ発見につながるのです。

例えば、バスケットボールに夢中なB君がいるとします。彼の本棚は、NBA選手の自伝や戦術解説書でいっぱいです。それは素晴らしいことですが、ワッツの教えに従って、彼はある日、学校の図書館で全く興味のなかった「クラシック音楽の作曲家の伝記」を手に取ってみました。

読み始めると、偉大な作曲家がオーケストラの様々な楽器(ヴァイオリン、トランペット、打楽器など)の特性を深く理解し、それらを組み合わせて一つの壮大な交響曲を創り上げていく過程が、バスケのヘッドコーチの仕事とそっくりであることに気づきます。ポジションごとに役割の違う選手たちの個性を最大限に引き出し、一つのチームとして機能させ、勝利という最高のハーモニーを奏でる。B君は、音楽の世界から、チームビルディングの全く新しいヒントを得たのです。

これが、読書の「食わず嫌い」を克服した先にある、エキサイティングな発見です。ワッツは**「欠点よりも美点を探し、本の各部分を公正に評価する」**べきだと言います。一見、自分には関係ない、役に立たないと思える本の中にも、必ず一つは、自分の世界を広げてくれる「美点」が隠されているのです。勇気を出して未知のジャンルの棚に手を伸ばす。その小さな冒険が、あなたの思考をより柔軟で、より創造的なものへと変えてくれます。

1冊の本と「親友」になる – 深く、繰り返し読む技術

たくさんの本と出会い、読書の幅を広げていく中で、あなたはきっと「この本は、自分のために書かれたのかもしれない」と感じるような、特別な一冊に出会うはずです。ワッツは、すべての本を同じ熱量で読む必要はないと言います。

「一部の本は一度読めば十分だが、他は復習すべきである」と。

人生を変えるほどの一冊、いわば「一生モノの本」に出会ったなら、その本とは一度きりでさよならするのではなく、生涯付き合っていく「親友」のような関係を築くべきです。

例えば、ある物語に深く感動したCさんがいるとしましょう。彼女はその本と、こんな風に付き合っていきます。

  • 1回目(10代):初めての出会い とにかくストーリーの面白さに夢中になり、主人公に自分を重ね合わせ、一気に読み終える。その感動は、鮮烈な思い出として心に刻まれます。
  • 2回目(20代):久しぶりの再会 社会人になり、少し人生経験を積んだ頃に再読します。すると、昔は気づかなかった物語の伏線や、脇役たちの深い言葉の意味が、痛いほど理解できるようになっています。10代の頃とは違う登場人物に感情移入し、物語の多層的な魅力に改めて驚きます。
  • 3回目以降(30代、40代…):親友との対話 人生の節目節目で、その本を繰り返し開きます。本の内容は変わりませんが、読み手であるCさん自身が変化しているため、毎回新しい発見があります。昔、線を引いた箇所を読み返し、「若い頃はこんなことで悩んでいたんだな」と微笑んだり、自分の子供に読み聞かせながら、また新たな解釈を見つけたりします。

優れた本は、まるで万華鏡のように、あなたの成長に合わせて違う景色を見せてくれます。ページに線を引いたり、感じたことを書き込んだりして、自分だけの対話の記録を刻み込んでいく。そうやって、一冊の本を「自分だけの一冊」に育て上げていくのです。ワッツが言うように、最終的には**「著者よりも主題そのものを研究することが重要である」**のです。本はあくまできっかけであり、それをテコにして、自分自身の人生や思考を深めていくことこそが、読書の最終目標なのです。

まとめ:最高の「ブック・ナビゲーター」は、あなた自身だ

今回は、本の洪水の中から自分にとって本当に価値ある一冊を見つけ出し、長く付き合っていくための技術についてお話ししました。

ポイントを振り返ってみましょう。 第一に、本を買う前に「5分間ブック・プレビュー術」を実践し、自分との相性を見極めることで、無駄な「積読」を減らすことができます。 第二に、時には自分の好きなジャンルから飛び出す「食わず嫌い」克服の冒険が、あなたの世界を予期せぬ形で広げてくれます。 そして第三に、「これだ!」という一冊に出会ったら、何度も繰り返し読むことで、その本はあなたと共に成長してくれる「一生の親友」になるのです。

結局のところ、あなたにとって最高の「ブック・ナビゲーター(本の案内人)」は、有名な書評家でも、AIのおすすめ機能でもありません。あなた自身の「知的好奇心」です。自分の心をコンパスにして、ワクワクする本を探す旅。それ自体が、知性を向上させるための、最高にクリエイティブな活動なのです。

【明日からできるアクションプラン】 次の休み時間や放課後、学校の図書室か近所の書店に行ってみましょう。そして、普段なら絶対に近づかないジャンル(例えば、あなたが理系なら詩集の棚、文系なら科学雑誌の棚)の前に、5分間だけ立ってみてください。そして、そこで「なんとなく気になる」と感じた本を一冊だけ手に取り、今日学んだ「5分間ブック・プレビュー術」を試してみましょう。

買う必要も、借りる必要もありません。ただ、試してみるだけです。その小さな冒険が、あなたの人生を根底から変えるような、運命の一冊との出会いにつながっているかもしれません。

Comments

No comments yet. Why don’t you start the discussion?

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です