第9回:なぜ黒字倒産?キャッシュ・フロー計算書(C/F)で企業の血液を知る

こんにちは!

私たちはこれまで、会社の「成績表」である損益計算書(P/L)と、「健康診断書」である貸借対照表(B/S)を読み解いてきました。フジクラが「業績好調」かつ「財務も健全」であることを確認でき、投資家としては一安心、といったところでしょうか。

しかし、ここで一つ、恐ろしい事実をお伝えしなければなりません。それは、**「P/L上で利益が黒字の会社でも、倒産することがある」という事実です。これを「黒字倒産」**と呼びます。

なぜ、そんなことが起こるのでしょうか?その謎を解く鍵こそが、財務三表の最後のピース、**「キャッシュ・フロー計算書(C/F:Cash Flow Statement)」**です。今回は、企業の生命線である「現金(キャッシュ)」の流れを追いかけ、企業の本当のサバイバル能力を見抜く方法を学びます。


なぜ利益と現金は違うのか?会計の重要ルール

黒字倒産の謎を解くには、まず「利益」と「現金」がなぜ一致しないのかを理解する必要があります。その理由は、P/Lが**「発生主義」というルールで作成されているのに対し、C/Fは「現金主義」**というルールで作成されているからです。

  • 発生主義(P/Lのルール): 現金の動きに関係なく、取引が発生した時点で売上や費用を計上する考え方。
  • 現金主義(C/Fのルール): 実際に現金が入金・出金された時点で記録する考え方。

例えば、100万円の商品を掛け(ツケ)で販売した場合を考えてみましょう。

  • P/L(発生主義)では… 商品を販売した瞬間に**「売上100万円」が計上**され、利益が生まれます。
  • C/F(現金主義)では… 実際に顧客から100万円が振り込まれるまで、お金は1円も増えません。

この「売ったのにお金がまだ入ってこない状態」の売上を**「売掛金」**と呼びます。B/Sを見ると、フジクラには約2,095億円もの売掛金があります 。これはP/L上では既に利益として計上されていますが、まだ現金化されていないのです。

もし、この売掛金の回収が遅れたり、取引先が倒産して回収不能になったりすると、P/L上は黒字でも、手元の現金が尽きてしまい、社員の給料や仕入代金が支払えなくなります。これが黒字倒産のメカニズムです。

C/Fは、このP/Lの数字の「時間差」を埋め、企業のリアルな資金繰りを映し出す鏡の役割を果たすのです。


C/Fを構成する3つの活動 – 企業の「お金の使い道」

C/Fは、会社の活動を以下の3つのカテゴリーに分けて、現金の増減を示します。

① 営業活動によるキャッシュ・フロー (Operating Activities)

本業でどれだけ現金を稼いだかを示す、C/Fの中で最も重要な項目です。 ここがプラスであれば、本業が順調に現金を生み出している証拠です。計算は、P/Lの税引前純利益からスタートし、現金支出を伴わない費用(減価償却費など)を足し戻したり、売掛金や棚卸資産の増減を調整したりして算出します。

② 投資活動によるキャッシュ・フロー (Investing Activities)

将来の成長のために、どれだけ現金を使ったか(または得たか)を示します。 新しい工場を建てたり(支出)、保有していた有価証券を売却したり(収入)した際の現金の動きです。成長企業は、将来のために積極的に投資を行うため、この項目はマイナスになるのが一般的です。フジクラが発表した450億円の新工場建設 は、まさにこの投資活動の一環です。

③ 財務活動によるキャッシュ・フロー (Financing Activities)

資金調達や返済で、どれだけ現金が増減したかを示します。 銀行からお金を借りたり(収入)、株主へ配当金を支払ったり(支出)、借金を返済したり(支出)した際の現金の動きです。


フジクラのC/Fはどこ?- 決算短信の注意点

さて、ここまで学んだ知識を使って、フジクラのC/Fを見てみましょう…と言いたいところですが、決算短信の8ページ目には、こんな一文があります。

「当第1四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成しておりません。」

実は、日本の会計ルールでは、四半期決算短信でのC/Fの開示は義務付けられていないのです。そのため、フジクラのように開示していない企業も多くあります。(より詳細な年次報告書である「有価証券報告書」では開示義務があります)

しかし、がっかりする必要はありません。今回の決算短信には、C/Fを理解するための重要なヒントが残されています。

【深掘り分析】C/Fのロジックを読み解くヒント

同じく8ページ目に、**「減価償却費:54億6,700万円」**という記載があります 。 「減価償却費」とは、工場や機械などの高額な固定資産の取得費用を、耐用年数にわたって少しずつ費用として計上していく会計処理です。

重要なのは、この費用は**P/L上ではコストとして利益を押し下げますが、実際には現金が出ていっているわけではない(お金は最初に買った時に支払い済み)**という点です。

そのため、営業キャッシュ・フローを計算する際には、P/Lの利益にこの減価償却費を**「足し戻す」**という作業を行います。今回の短信にC/F本体はなくとも、この減価償却費のデータから、私たちはC/F計算の非常に重要なロジックの一端を学ぶことができるのです。


まとめ:理想的なC/Fの形とは

C/Fがなくても、私たちはその重要性を学びました。では、健全な成長企業が見せる「理想的なC/Fのパターン」とはどのようなものでしょうか。

  • 営業CF:プラス(+)… 本業でしっかりと現金を稼いでいる
  • 投資CF:マイナス(ー)… 稼いだ現金を、未来の成長のために再投資している
  • 財務CF:マイナス(ー)… 投資で足りない分を補いつつ、借金の返済や株主への配当も行っている

この**「+, ー, ー」**の組み合わせが、企業の健全な成長サイクルを示す黄金パターンと言われています。

今回はC/Fの実物を見ることはできませんでしたが、その役割と重要性は深く理解できたはずです。

さて、これまで9回にわたり、財務三表(P/L, B/S, C/F)を一つずつ学んできました。いよいよ次回は最終章。これら3つの書類を繋ぎ合わせ、フジクラという企業を総合的に評価する旅に出ます。

次回、『第10回【総合分析】:財務三表を繋げて読む!フジクラの強みと弱み』で、これまでの知識を総動員し、投資家としての最終結論に迫ります。お楽しみに!

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