
最近、ニュースを見るたびに「円安だ」「いや少し戻した」と、為替の話題が尽きないですよね。スーパーに行けば輸入品が高くなっているし、ガソリン代もバカにならない。かといって、また昔のような円高不況が来るのも怖い…。
私たちの世代(40代前後)にとって、資産を守るというのは、単に「増やす」こと以上に切実な問題になりつつあります。
今日は、そんな不安定な時代において、私が個人的に最も「心が落ち着く」と感じている資産管理のメソッドについてお話ししようと思います。それは、**「日本円と米ドルを半分ずつ持つ(50:50)」**という、極めてシンプル、かつ強力なディフェンス戦略です。
これは、一晩で億万長者になるような派手な投資話ではありません。しかし、どちらに転んでも資産価値が大きく毀損しない、「負けないための仕組み」です。
なぜ今、「日本円だけ」では眠れないのか
まず、前提として認識しておきたいのが「日本円一本足打法」のリスクです。
私たちは日本で生活しているので、給料も円、支払いや貯金も円というのが当たり前です。しかし、グローバルな視点で見ると、これは「日本という一国の通貨に全財産を集中投資している」のと同じ状態なんですよね。
もし、今後さらに円の価値が下がったらどうなるでしょう? 持っている1000万円の預金は、額面こそ変わりませんが、購入できるモノの量(購買力)はガクンと下がります。
逆に、急激に円高になったら? 輸出企業の業績が悪化し、日本の株価が下がり、私たちの給与やボーナスに響くかもしれません。
「どっちに転んでも怖い」 この不安を解消するのが、通貨の分散です。
究極のバランス「円・ドル 50:50」の仕組み
そこで提案したいのが、資産の半分を世界基軸通貨である「米ドル」で持つという戦略です。
例えば、手元に余裕資金が1000万円あるとします。 これを**「500万円分の日本円」と「500万円分の米ドル」**に分けます。
この状態を作ると、シーソーのような現象が起きます。
- 円安(ドル高)になった場合: 日本円の価値は下がりますが、持っているドルの価値(円換算額)が上がります。
- 円高(ドル安)になった場合: ドルの価値は下がりますが、持っている日本円の価値(購買力)は守られます。
つまり、為替がどっちに動いても、資産全体の評価額としての変動幅(ブレ)が相殺され、マイルドになるのです。これが「資産の安定化」です。
「スイッチ」戦略:リバランスが生む利益
さて、ここからが本題です。 単に半分ずつ持って放置する(バイ・アンド・ホールド)だけでも守りにはなりますが、**「スイッチ(リバランス)」**という作業を行うことで、機械的に利益を生み出すことができます。
「放置した場合」と「スイッチした場合」でどれくらい差が出るのか、具体的なシミュレーションを見てみましょう。 (※計算を単純にするため、手数料や税金は一旦考慮せず、純粋な値動きだけを見ます)
【スタート時】
- レート:1ドル=100円
- 資産:日本円500万円 + 米ドル5万ドル(500万円相当)
- 合計:1000万円
ケース1:円安になって戻った場合(放置 vs スイッチ)
円安(1ドル=125円)になり、その後また100円に戻ったとします。
【放置派(何もしない)】
- 125円時:資産評価額は1125万円に増えますが、何もしません。
- 100円時:資産評価額は1000万円に戻ります。
- 結果:プラスマイナスゼロ。
【スイッチ派(リバランス実行)】
- 125円時:資産評価額は1125万円。ここで「スイッチ」発動!
- 半分の562.5万円になるよう、増えたドルを売って円にします。
- これは**「高く売る(利益確定)」**行為です。
- 100円時:
- 円:562.5万円(利確した分、増えています)
- ドル:450万円(4.5万ドル × 100円)
- 合計:1012.5万円
- 結果:レートは元に戻っただけなのに、資産が約12.5万円増えました。
これが**「リバランス効果」**です。相場の波をエネルギーに変えて、資産に取り込むことができるのです。
恐怖の「円高」でも資産が増えるカラクリ
「円安はいいけど、円高が怖いんだよ」という方も多いでしょう。 では、**円高(1ドル=80円)**になってから、元に戻った場合を見てみましょう。
手数料は、ネット銀行の一般的な水準である**「片道15銭(0.15円)」**を考慮して計算します。
1. 円高到来(1ドル=80円)
資産は合計900万円に目減りします(円500万+ドル400万)。恐怖の瞬間です。 しかし、スイッチ派はここで動きます。
- 合計900万円の半分、450万円になるように調整します。
- 手元の円50万円を使って、安くなったドルを買い増します。
- 50万円 ÷ 80円 = 6,250ドル購入(手数料は約938円です)。
- これは**「安く買う(仕込み)」**行為です。
2. レートが元に戻った(1ドル=100円)
- 日本円:450万円
- 米ドル:562.5万円(56,250ドル × 100円)
- 合計:1012.5万円
結果: なんと、円高からの回復局面でも、手数料を引いても約12.4万円の利益が出ました。 「下がったら買う」を機械的に実行できたおかげで、回復時の利益がブーストされたのです。
メリットばかりではない。「不都合な真実」とデメリット
良いことばかり言うのは誠実ではないので、この戦略の**「弱点」**についても包み隠さずお話しします。ここを理解していないと、いざという時に心が折れます。
1. 円高局面では「日本円100%」に負ける
もし将来、確実に円高になると分かっているなら、ドルなんて持たずに全額日本円で持っているのが最強です。 円高になった瞬間、半々で持っている私たちの資産評価額は(円換算で)減ります。「あーあ、円のまま持っておけばよかった」と思うでしょう。
それでもなぜ半々にするのか? それは**「未来が読めないから」**です。もし円高予想が外れて超円安になったら、日本円だけでは死活問題になります。円高時の評価損は、「予想外の円安で生活が破綻しないための保険料」だと割り切る必要があります。
2. 一方的なトレンド相場では「持ちっぱなし」に負ける
もし、これから一直線に1ドル200円、300円と**「永遠に円安が進む」**なら、途中でドルを売ってしまうスイッチ戦略は、持ちっぱなし(ホールド)よりも利益が少なくなります。 この戦略は、あくまで「上がったり下がったりする(レンジ相場)」で真価を発揮するものです。
3. 税金と手数料の壁
外貨預金の為替差益は、原則として**「雑所得(総合課税)」です。NISAのような非課税メリットはありませんし、給与所得が高い方は税率が高くなる可能性があります。 また、大手銀行の窓口などでやると、手数料(スプレッド)が高すぎて利益が全部飛びます。必ず手数料の安いネット銀行**を使う必要があります。
実践編:いつスイッチを入れるべきか?
では、具体的にどう運用すればいいのか。2つのレベルに分けて提案します。
【レベル1:基本編】±5円ルール
あまり頻繁に売買すると手数料がかさむ上に、精神的にも疲れます。 おすすめは、**「前回調整したレートから、±5円〜10円動いたらスイッチする」**というゆるいルールです。
- 150円でスタートしたら、155円になったら売る。145円になったら買う。
- これなら、日々の細かい1〜2円の動き(ノイズ)に惑わされず、大きな波だけを捉えられます。
【レベル2:上級編】移動平均線を使った「トレンド追従」
「長期的には円安だと思うから、安易にドルを売りたくない。でも波は取りたい」 そんな方には、チャート分析の基本**「200日移動平均線(200MA)」**を使う方法をおすすめします。
これは過去約1年間の平均値のラインです。 この線を「基準(中央値)」として考えます。
- 売り時: 現在レートが、移動平均線より**「+5円以上」**急騰した時(上がりすぎ)。
- 買い時: 現在レートが、移動平均線より**「−5円以上」**急落した、または線にタッチした時(押し目)。
この方法なら、円安トレンドで基準線が上がっていくのに合わせて、資産を増やしながら波の利益も取ることができます。
まとめ:攻めではなく、守りのための「半々」
NISAで全世界株式(オルカン)やS&P500に投資している人も多いでしょう。それは「攻め(将来の成長)」の資産です。 今回お話しした「円・ドル半々」のスイッチ戦略は、それとは別枠の、今ある生活と資産を守るための「防波堤」です。
円高になっても、「安くドルが買えるチャンス」。 円安になっても、「ドルの価値が上がって資産防衛できた」。
「どっちに転んでも大丈夫」 そうドンと構えていられる心の余裕こそが、この戦略がもたらす最大の配当かもしれません。
資産形成は、長く続けることが一番大切です。 無理のない範囲で、通貨の分散、始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事は情報提供を目的としており、投資の勧誘を目的とするものではありません。投資の最終決定は、ご自身の判断と責任で行ってください。また、税制や手数料は金融機関や時期によって異なりますので、必ず最新情報をご確認ください。

