皆さん、こんにちは!
授業でびっしりとノートを取り、参考書を何十ページも読み、友達との会話から新しい情報を仕入れる…。私たちは毎日、たくさんの知識を一生懸命インプットしています。それなのに、「いざテストになると、なぜか思い出せない」「色々知っているはずなのに、結局自分はどう考えればいいのか分からない」なんて、悩んだことはありませんか?
その状態は、例えるなら「美食のフルコースを、消化薬なしで一気に詰め込んでいる」ようなもの。美味しい料理(知識)をたくさん食べても、それを胃腸でしっかり消化・吸収しなければ、栄養になるどころか、お腹を壊してしまいますよね。
実は、私たちの脳も全く同じです。アイザック・ワッツが提唱した「知性を向上させるための5つの方法」(観察、読書、講義、会話、瞑想)の最後のピース、「瞑想」。これこそが、脳にとっての「消化・吸収」のプロセスであり、集めただけの情報を、本物の「知恵」に変えるための、最も重要なステップなのです。
今回は、この「瞑想」、すなわち**「一人で深く考える時間」**がいかに重要で、具体的に何をすればいいのかについて、じっくりと探っていきましょう。
「知の消化活動」としての瞑想 – なぜ一人の時間が必要なのか?
まず誤解しないでほしいのですが、ワッツが言う「瞑想」とは、目を閉じて無心になる禅のようなものではありません。彼が言う瞑想とは、
「自分自身の理性による吟味と判断」
を行う、極めてアクティブで知的な活動を指します。
これまで私たちが学んできた「観察」「読書」「会話」は、外の世界から情報という「食材」を集めてくる作業でした。しかし、ワッツは「それらの方法だけでは真の知識と知恵は得られない」 と断言します。なぜなら、集めた食材は、まだ「他人のもの」だからです。
- 道端の草花を観察して得た情報。
- 教科書を読書して得た情報。
- 先生の講義で聞いた情報。
- 友達との会話で知った情報。
これらはすべて、自分以外の誰かが見つけたり、考えたりしたものです。このままでは、ただの借り物の知識に過ぎません。 ワッツによれば、
「それ(瞑想)のみが個人的な判断力を形成し、知識を個人的なものにし、知識のテーマへのより深い洞察を確実にする」
のです。
つまり、「瞑想」とは、集めてきた様々な食材(情報)を、自分だけのキッチン(頭の中)で、自分だけのレシピ(思考)で調理し、栄養(知恵)として体に吸収する、いわば「知の消化活動」なのです。 この活動は、テレビを見ながらや、友達と話しながらではできません。誰にも邪魔されない、静かな一人の時間が必要不可欠となります。たくさんのサッカーの試合動画を見ても、一人でボールを蹴る練習をしなければうまくならないのと同じように、インプットの後に一人で「うーん…」と唸りながら考える時間こそが、あなたを本当に賢くしてくれるのです。
思考の「ごちゃまぜスープ」から「フルコース」へ – 情報を整理・構造化する技術
「一人で考える、と言われても、具体的に何をすればいいの?」 当然の疑問ですよね。ただ闇雲に考えていても、思考は堂々巡りになってしまいます。そこで、ワッツの教えをヒントに、インプットした情報を整理し、構造化するための具体的なステップを紹介しましょう。
インプットした直後の私たちの頭の中は、様々な知識がごちゃ混ぜになった「具材たっぷりのスープ」のような状態です。これを、前菜・メイン・デザートといった、意味のあるつながりを持った「フルコース」に仕立て直す作業が、瞑想の第一歩です。ワッツは**「既知のものから未知のものへとゆっくりと漸進的に進む」 ** ことを勧めています。
例えば、あなたが「第二次世界大戦」について、授業や読書、映画などで様々な情報を得たとします。頭の中は「真珠湾攻撃」「ノルマンディー上陸作戦」「ヒトラー」「原爆」「ポツダム宣言」といったキーワードでいっぱいです(ごちゃまぜスープの状態)。
ここから、**瞑想(思考の整理)**を始めます。
- 【ステップ1:書き出す(ブレインストーミング)】 まず、知っていること、気になっているキーワードを、何も考えずに紙やノートにすべて書き出してみましょう。頭の中から、一度すべての具材を取り出すイメージです。
- 【ステップ2:グループ分け(グルーピング)】 書き出したキーワードを、似たもの同士でグループに分けてみます。「真珠湾攻撃」と「ノルマンディー上陸作戦」は『主な戦い』のグループかな。「ヒトラー」や「ルーズベルト」は『主要な人物』。「原爆」と「ホロコースト」は『悲劇的な出来事』…というように、自分なりのカテゴリーで分類します。
- 【ステップ3:矢印でつなぐ(構造化)】 これが最も重要なステップです。グループ分けしたキーワードや出来事の間に、「なぜ?」「その結果どうなった?」という問いを立て、因果関係や影響関係を矢印で結んでいきます。 「『真珠湾攻撃』があったから、『アメリカの参戦』につながった」「『ヒトラーの台頭』が、なぜ『ホロコースト』という悲劇を生んだのだろう?」 このように、知識の点と点を線で結びつけていくことで、バラバラだった情報が、一つの大きな物語として立体的に見えてきます。
この作業を通して、あなたは「第二次世界大戦」という複雑な出来事の全体像を、自分なりに再構築することができます。これが、ごちゃまぜスープが、見通しの良いフルコースに変わる瞬間です。
「言葉」と「物事」を区別せよ – 自分だけのアイデアを生み出す
思考の整理が済んだら、瞑想はさらに深いレベルへと進みます。それは、単なる情報整理に留まらず、あなた自身のオリジナルな考え、つまり「知恵」を生み出す段階です。
そのための鍵として、ワッツは若者たちに**「言葉と物事を区別し、明確なアイデアを持つことを早期に学ぶ」 ** ように促しています。
これはどういうことでしょうか。私たちは、難しい専門用語や、流行りのキーワードを聞くと、その言葉を知っているだけで、物事を理解した気になってしまいがちです。しかし、本当の理解とは、その言葉を「自分の言葉」や「自分の身近な出来事」に翻訳し、その本質を掴むことなのです。
例えば、最近よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉を考えてみましょう。
- 「言葉」のレベルでの理解 「SDGsって、なんか環境に良いことでしょ?17個の目標があるんだよね」 …これでは、テストで用語を答えることはできても、自分の行動にはつながりません。
- 「物事」のレベルで考える瞑想 あなたは一人になって、この「SDGs」という言葉を、自分の生活という物事に引きつけて考え始めます。 「『持続可能』って、どういうことだろう? 僕が今飲んでるペットボトルのお茶も、飲み終わったらゴミになる。これは『持続可能』じゃないよな…」 「12番目の目標に『つくる責任 つかう責任』ってあるけど、僕の『つかう責任』って何だろう? お母さんが作ってくれた晩ごはんを残さず食べることも、その一つかな?」 「僕の通学路にある商店街が、最近シャッターを閉める店が増えて寂しくなっている。これは、11番の『住み続けられるまちづくりを』に関係する問題かもしれない。僕に何かできることはないかな?」
このように、借り物だった大きな「言葉」を、自分の日常にある具体的な「物事」に分解し、自分事として問い直す。このプロセスを通じて初めて、あなたは「SDGs」という概念を本当に理解し、「じゃあ、自分は明日から何をしようか」という、自分だけの行動指針(知恵)を生み出すことができるのです。
まとめ:静かな「一人時間」こそが、あなたを賢くする
今回は、観察や読書でインプットした知識を、本物の知恵に変えるための「瞑想」、すなわち「一人で深く考える時間」の重要性とその方法についてお話ししました。
ポイントを振り返りましょう。 第一に、インプットした知識は、それを消化・吸収するための**「瞑想(一人で考える時間)」がなければ、本当の意味で自分のものにはなりません。 第二に、瞑想の具体的な方法として、情報を書き出し、グループ分けし、因果関係でつなぐことで、知識の全体像を掴むことができます。 そして第三に、難しい「言葉」を自分の身近な「物事」に置き換えて考えることで、借り物の知識は、応用可能な自分だけの「知恵」**に変わるのです。
ワッツの教えは、情報収集に追われる現代の私たちに、インプットと同じくらい、あるいはそれ以上に「何もしないで、ただ考える時間」がいかに大切かを教えてくれます。
【明日からできるアクションプラン】 今日一日、学校の授業や友達との会話、読書などで学んだことや、「面白いな」と感じたことを、一つだけ選んでみましょう。そして夜、眠る前のたった10分間、スマートフォンやテレビを消して、そのことについて静かに考えてみてください。「なんでそうなるんだろう?」「もし自分だったらどうするかな?」と。ノートに考えを書き出してみるのも、とても良い方法です。
この静かで贅沢な10分間が、あなたの脳内で知識の素晴らしい化学反応を起こし、あなたを昨日より少しだけ賢くしてくれる、魔法の時間になるはずです。