【行政書士試験対策】行政事件訴訟法の全体像を完全攻略!4つの訴訟類型と重要ポイント

行政事件訴訟法をわかりやすく解説|国民の権利を守るための重要な法律

行政から受けた処分に納得できない、どうすればいいのだろう? このような、国や地方公共団体といった「行政」とのトラブルを解決するために定められた法律が「行政事件訴訟法」です。

この法律は、国民の権利や利益を守るための重要なセーフティーネットとして機能します。 今回は、行政事件訴訟法の目的や歴史、そして中心となる4つの訴訟類型について、初めて学ぶ方にも理解できるよう、具体例を交えながら詳しく解説します。

行政事件訴訟法とは?

行政事件訴訟法は、行政庁の違法な行為によって権利を侵害された国民が、裁判所に訴えを起こしてその是正を求めるための手続きを定めた法律です。行政に関する争いごとのルールを定めた基本法と位置づけられています。

この法律の最も重要な目的は、国民の権利利益の救済と、行政の適正な運営を確保することにあります。

行政事件訴訟法の沿革と特徴

現在の行政事件訴訟法は1962年に制定され、2004年に国民の救済範囲を広げる大きな改正が行われました。これにより、従来は訴訟が難しかったケースでも、国民が権利を主張しやすくなりました。

この法律には、以下のような特徴があります。

  • 概括主義の採用: 訴訟の対象となる行政活動を個別に列挙するのではなく、「処分その他公権力の行使に当たる行為」といったように、包括的に定めています。これにより、社会の変化によって生じる新たな行政活動にも柔軟に対応できます。
  • 民事訴訟法の準用: 行政事件訴訟法に特別な定めがない事柄については、一般的な裁判のルールである民事訴訟法の規定が適用されます。
  • 不服申立て前置主義の原則廃止: かつては、裁判所に訴える前に、まず行政機関に対して不服を申し立てる(審査請求)必要がありました。現在ではこの原則は廃止され、いきなり裁判所に訴訟を提起することが可能です。ただし、税金の滞納処分など、個別の法律で審査請求を先に行うよう定められている場合もあります。
  • 被告を誤った場合の救済: 訴える相手(被告)を間違えてしまった場合でも、原告に悪意や重大な過失がなければ、裁判所の判断で正しい被告に変更することが認められています。

行政事件訴訟法の4つの訴訟類型

行政事件訴訟法では、争いの内容に応じて、主に4つの訴訟タイプが用意されています。

  1. 抗告訴訟: 行政庁の公権力の行使に不服がある場合の訴訟。
  2. 当事者訴訟: 当事者間の法律関係の確認を求める訴訟。
  3. 民衆訴訟: 個人の利益ではなく、公共の利益のために提起する訴訟。
  4. 機関訴訟: 国や地方公共団体の機関同士の争いを解決する訴訟。

この中でも、国民の権利救済に最も直結し、利用頻度が高いのが「抗告訴訟」です。ここからは、それぞれの訴訟類型を詳しく見ていきましょう。

1. 抗告訴訟|行政の「処分」を争う

抗告訴訟は、行政庁の決定(処分)や不作為(何もしないこと)に不服がある場合に利用される、行政事件訴訟の中心的な訴訟です。抗告訴訟は、さらに以下の5つの種類に分かれます。

① 取消訴訟

取消訴訟は、違法な行政処分などによって自己の権利や利益を侵害された者が、その処分の効力を失わせる(取り消す)ことを裁判所に求める訴訟です。抗告訴訟の中で最も多く利用されています。

  • 具体例: 営業許可の取消処分、固定資産税の課税処分、開発許可の拒否処分など。

この訴訟を提起するためには、いくつかの訴訟要件を満たす必要があります。一つでも欠けると、訴えは不適法として却下されてしまいます。

  • 処分性: 訴えの対象が、法律上の「処分」に該当すること。
  • 原告適格: 訴えを提起する人が、処分の取消しを求める「法律上の利益を有する者」であること。
  • 訴えの利益: 判決によって権利救済が実際に得られること。
  • 被告適格: 処分を行った行政庁が所属する国または公共団体を正しく被告とすること。
  • 出訴期間: 原則として、処分があったことを知った日から6ヶ月以内、処分の日から1年以内に訴えを提起すること。

判決で処分が違法であると認められれば、その処分は効力を失います。また、関係する行政庁は、その判決内容に従う義務を負います(拘束力)。

② 無効等確認訴訟

処分の効力の有無や、処分の存在・不存在の確認を求める訴訟です。 処分に「重大かつ明白な瑕疵(かし)」(誰が見ても分かるような非常に大きな誤り)がある場合に、その処分が当初から無効であることを確認してもらいます。取消訴訟と異なり、出訴期間の制限がありません。

  • 具体例: 死亡している人に対する課税処分など。

③ 不作為の違法確認訴訟

行政庁に対して法令に基づく申請をしたにもかかわらず、行政庁が「相当の期間内」に何らの応答(処分や裁決)もしない場合に、その「不作為(何もしないこと)」が違法であることを確認する訴訟です。

  • 具体例: 飲食店の営業許可申請をしたのに、行政庁がいつまでも許可も不許可もしてくれない場合。

ただし、この訴訟はあくまで不作為が違法であることを確認するだけであり、行政庁に許可処分を出すことまでを直接命じることはできません。

④ 義務付けの訴え

特定の状況において、行政庁に対して一定の処分を行うよう命じることを裁判所に求める訴訟です。2004年の法改正で新たに法定化され、国民の救済手段が大きく広がりました。

  • 申請型義務付け訴訟: 申請・審査請求が拒否されたり、不作為の状態にある場合に、行政庁に処分を行うよう求める訴訟。上記の「取消訴訟」や「不作為の違法確認訴訟」とセットで提起する必要があります。
    • 具体例: 情報公開請求を拒否されたため、拒否処分の取消しを求めると同時に、開示を命じるよう訴える。
  • 非申請型義務付け訴訟: 申請を前提とせず、直接行政庁に処分を求める訴訟。放置すると重大な損害が生じるおそれがある場合に限られます。
    • 具体例: 隣地の違法建築物について、行政庁が是正命令を出さないため、住民が行政庁に対して是正命令を出すよう訴える。

⑤ 差止めの訴え

行政庁が違法な処分を行おうとしている場合に、その処分が実行される前に、あらかじめ差し止めることを裁判所に求める訴訟です。これも2004年の改正で法定化されました。

  • 具体例: 違法な産業廃棄物処理場の建設許可が、まさに下りようとしている場合に、周辺住民がその許可処分をしないよう訴える。

2. 当事者訴訟|行政と対等な立場で争う

当事者訴訟は、行政処分の効力を直接争うのではなく、公法上の法律関係そのものを争う訴訟です。行政と国民が、対等な立場の当事者として争う点が特徴です。

  • 実質的当事者訴訟: 公法上の法律関係に関する確認の訴えなど。
    • 具体例: 日本国籍を有することの確認を求める訴訟、公務員の地位の確認を求める訴訟など。
  • 形式的当事者訴訟: 法令の規定により、当事者間の法律関係について、その一方を被告として争う形式の訴訟。
    • 具体例: 土地収用における補償金の額に不満がある場合に、国や地方公共団体ではなく、事業者を相手取って増額を求める訴訟。

3. 民衆訴訟|客観的な立場で適法性を問う

自分の法律上の利益とは直接関係なく、選挙の有効性や地方公共団体の違法な財務会計行為の是正など、客観的な法の適正さを確保するために提起する訴訟です。

法律で定められた特定の者しか提起できないため、誰でも訴えられるわけではありません。

  • 具体例: 選挙無効訴訟、住民訴訟(地方自治法に基づく)。

4. 機関訴訟|行政機関同士の争い

国や地方公共団体の機関相互間における権限の存否や行使に関する紛争についての訴訟です。これも法律で定められた場合にしか提起できません。

  • 具体例: 都道府県知事と市町村長の間の権限争いや、国の関与に関する地方公共団体の訴えなど。

関連法規との関係

行政事件訴訟法を理解する上で、よく比較される2つの法律との違いを押さえておきましょう。

行政不服審査法との違い

行政機関に対して不服を申し立てる制度です。裁判所ではなく、行政内部での解決を目指します。

行政事件訴訟法行政不服審査法
判断機関裁判所上級行政庁など
審理の対象違法な行為のみ違法または不当な行為
審理方式口頭弁論(公開)書面審理(非公開)が原則
特徴慎重な判断簡易・迅速な解決

国家賠償法との違い

公務員の違法な行為によって損害を受けた場合に、国や公共団体に対して金銭的な賠償(損害賠償)を求める制度です。

行政事件訴訟は「処分の取消し」を求めるもので、国家賠償は「お金の支払い」を求めるもの、と目的が異なります。処分の取消しと損害賠償の両方を求めることも可能です。

行政書士試験における重要性

行政事件訴訟法は、行政書士試験の行政法分野において、極めて重要な科目です。特に、この記事で解説した「訴訟類型」の正確な理解は必須となります。

  • 取消訴訟の訴訟要件(特に原告適格)
  • 義務付け訴訟・差止訴訟の要件
  • 各訴訟類型の違いと具体例

これらのテーマに関する条文や関連判例は頻出するため、それぞれの特徴を比較しながら、具体的な場面をイメージして学習を進めることが合格への鍵となります。

まとめ

行政事件訴訟法は、行政の活動を司法の目でチェックし、国民の権利を守るための最後の砦ともいえる法律です。その仕組みは複雑ですが、私たちの生活に密接に関わる重要なルールです。

もし行政の処分に疑問を感じたときは、このような訴訟制度があることを知り、専門家へ相談する第一歩に繋げてください。この記事が、そのための基本的な知識としてお役に立てれば幸いです。

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