第1回 なぜ今、アイザック・ワッツの『知性の向上』を読むべきなのか?

突然ですが、皆さんはこんなことを感じたことはありませんか?

「毎日スマホを見ていると、情報が多すぎて何が本当かわからなくなる…」 「勉強しなさいって言われるけど、そもそも何のために勉強するんだろう?」 「もっと効率よく勉強して、賢くなりたい!」

もし一つでも当てはまるなら、あなたは正しい場所に来てくれました。これから始まるこのブログ連載は、そんな皆さんのためのものです。私たちは一緒に、今から約300年も前に書かれた一冊の本を旅していきます。その本の名前は、アイザック・ワッツの『知性の向上』。

「300年前の本? 古すぎるし、難しそう…」と感じたかもしれませんね。でも、安心してください。この本に書かれている「知性の磨き方」は、驚くほど現代的で、スマートフォンやAIが当たり前になった今の時代にこそ、私たちにとって最強の武器になるのです。この連-載を通じて、私はその普遍的な知恵を、皆さんの学校生活や日々の暮らしに引き寄せ、中学生や高校生にも分かるように、じっくりと解説していきます。さあ、学びのOSをアップデートする冒険に出かけましょう!

情報の洪水から「宝物」を見つけ出す航海術

私たちの周りには、今、どれくらいの「情報」が溢れているでしょうか。朝起きてスマホをチェックすれば、友達からのメッセージ、SNSのタイムライン、ネットニュース、おすすめの動画などが、まるで滝のように流れ込んできます。そのすべてを真剣に受け止めていたら、頭はパンクし、あっという間に一日が終わってしまいますよね。

この状況は、まるで広大で、時に荒れ狂う「情報の海」に、たった一人で放り出されたようなものです。どの情報が信じるに値する「大陸」で、どれがすぐに消えてしまう「泡」なのか。どの航路を進めば目的地にたどり着き、どの航路が危険な渦潮につながっているのか。その見極めは非常に困難です。

ここでアイザック・ワッツの『知性の向上』が、私たちに「羅針盤」と「航海術」を授けてくれます。ワッツが生きていた300年前は、もちろんインターネットなどありませんでした。しかし、活版印刷の技術が広まり、多くの本や思想が世に出回り始めた「知の爆発」の時代でした。彼は当時から、人々が情報の表面だけをなぞって満足してしまうことに警鐘を鳴らしていたのです。

ワッツは、物事の深奥、つまり本質にまで踏み込んで考えることの重要性を強く説いています 。表面的な理解で満足せず、「なぜそうなるのか?」「その根拠は何か?」と深く掘り下げる姿勢こそが、真の知識への第一歩だと教えてくれるのです。

例えば、想像してみてください。あなたは、SNSで「〇〇を食べるだけで、テストの点が20点アップする!」という衝撃的な情報を見つけました。たくさんの「いいね!」がついていて、友達も「これ、すごいらしいよ!」と話しています。

ここで思考停止してしまうと、「そうなんだ!明日から毎日食べよう!」と、その情報を鵜呑みにしてしまうかもしれません。しかし、ワッツの航海術を身につけていれば、こう考えるはずです。「待てよ、本当にそんなうまい話があるだろうか?」「科学的な根拠はあるのかな?」「この記事を発信しているのは、どんな人(または会社)だろう?」と。そして、少しだけ手間をかけて、信頼できる情報源(例えば、公的な研究機関のウェブサイトや専門家の論文など)を調べてみる。その結果、それが特定のサプリメントを売るための、大げさな広告記事であることに気づくかもしれません。

これは、情報の洪水の中から、自分にとって本当に価値のある「宝物」、つまり信頼できる知識を見つけ出すための、非常に重要なスキルです。学校の勉強でも同じです。数学の公式をただ丸暗記するのではなく、「なぜこの公式が成り立つんだろう?」とその証明を追いかけてみる。歴史の年号を覚えるだけでなく、「なぜその年に、その場所で、その事件が起きたのだろう?」と背景にある人間ドラマや社会の動きに想いを馳せてみる。

このような「深く踏み込む」姿勢こそが、ワッツが教える航海術の神髄です。それは、情報に振り回される「乗客」から、自らの意志で進むべき道を決める「船長」へと、あなたを成長させてくれるのです。

「知ったかぶり」を卒業し、「本当の賢さ」を手に入れる

現代は、検索エンジンにキーワードを打ち込めば、瞬時に答え(らしきもの)が手に入る時代です。これは非常に便利ですが、同時に大きな落とし穴も潜んでいます。それは、「知っているつもり」になってしまう危険性です。

クイズ番組で活躍する人のように、たくさんの知識を記憶していることは素晴らしいことです。しかし、ワッツに言わせれば、それは「本当の賢さ」とは少し違います。彼は、生まれつきの才能や、ただたくさんの本を読んで記憶するだけの力を過信してはいけない、と釘を刺しています 。なぜなら、そうして集めた知識は、まだ「自分のものではない」からです。

例えば、ゲームが好きな君なら、こんな経験はありませんか? あるRPGのボスがどうしても倒せない。そこで、攻略サイトを隅々まで読み込み、推奨レベル、最適な装備、ボスの行動パターン、一番効く攻撃方法など、すべての情報を「記憶」して挑んだとします。おそらく、あなたはそのボスを倒せるでしょう。しかし、もし攻略サイトに載っていなかった、想定外の攻撃をボスが繰り出してきたらどうでしょうか? あなたはパニックに陥り、あっさりと負けてしまうかもしれません。

一方で、攻略サイトを見ずに、何度も何度もボスに挑み、負け続けたA君がいるとします。彼は、「さっきはこの攻撃が効いたな」「この予備動作の後は、あの強力な技が来るぞ」「ここで回復アイテムを使ったら、次の攻撃に間に合わないかもしれない」といったことを、自らの体験を通じて学び取っていきます。彼は、ボスに関する断片的な「情報」を集めているのではありません。ボスの強さの「本質」を理解し、それに対応するための「知恵」を練り上げているのです。だから、想定外の攻撃が来ても、これまでの経験を応用して、冷静に対処できる可能性が高いのです。

ワッツが言う「本当の賢さ」とは、まさにA君が手に入れた力のことです。彼は、読書や記憶力だけでは真の知恵は得られず、自分自身の理性を使ってじっくりと考える「熟考」こそが重要だと強調しています

学校の勉強で言えば、英単語テストのために単語帳を丸暗記するのは、攻略サイトを読み込む行為に似ています。もちろんそれも大切ですが、それだけでは、初めて見る長文の中でその単語がどう使われているかを理解したり、自分の言葉で英作文を書いたりすることは難しいでしょう。本当の賢さとは、覚えた単語の語源を調べたり、例文を自分で作ってみたり、その単語が持つニュアンスを深く考えたりする中で、初めて身につくものなのです。

検索すればすぐに答えが見つかる時代だからこそ、「知ったかぶり」で満足せず、手に入れた知識を自分の中でじっくりと噛み砕き、試行錯誤し、自分だけの「知恵」に変えていく。このプロセスこそが、AIには真似できない、人間ならではの「考える」という営みであり、『知性の向上』が私たちに教えてくれる最も大切なことの一つなのです。

「学ぶ」ことは「生きる」こと – 全ての人のための普遍的な義務

「なんで勉強なんかしなくちゃいけないの?」 これは、古今東西、多くの生徒が抱いてきた素朴な疑問でしょう。「良い成績をとるため」「良い大学、良い会社に入るため」といった答えが返ってくることが多いかもしれません。しかし、アイザック・ワッツは、もっと根本的で、もっとスケールの大きな答えを私たちに示してくれます。

彼によれば、「知性を向上させること」は、学者や研究者といった一部の専門家だけのものではありません。それは、身分や職業に関わらず、「生きるすべての人にとって必要な義務であり、利益である」と断言しているのです 。なぜなら、私たちの人生は、大小さまざまな「判断」の連続だからです。そして、その判断を誤れば、自分自身や他人を不幸にしてしまう可能性があるからです

少し想像を広げてみましょう。 あなたが友人と些細なことで気まずい雰囲気になってしまったとします。ここで感情に任せて、「あいつが悪いんだ!」と決めつけてしまえば、関係はこじれる一方かもしれません。しかし、もしあなたがワッツの教えを学んでいれば、一度立ち止まって考えるはずです。 「本当に、すべての原因は相手にあるのだろうか?(独断的な精神を避ける )」

「彼のあの言葉の裏には、何か別の意図があったのではないか?(物事の深奥に踏み込む )」

「まずは冷静になって、自分の目で見たこと、聞いたことだけを整理してみよう(観察 )」

このように、自分の心を観察し、状況を分析し、冷静に推論する力は、まさにワッツが磨くべきだと説いた「知性」そのものです。この力があれば、あなたは友人との関係を修復し、より深い信頼関係を築くことができるかもしれません。

これは部活動でも同じです。あなたがサッカー部のキャプテンだとしましょう。チームがなかなか試合に勝てない時、「練習が足りないからだ! もっと走れ!」と精神論だけで引っ張っていくこともできるでしょう。しかし、知性を働かせれば、もっと良い方法が見つかるはずです。過去の試合のビデオを「観察」し、失点のパターンを分析する。専門書を「読書」して、最新の戦術やトレーニング方法を学ぶ。コーチやチームメイトと積極的に「会話」して、意見を交換する。そして、一人になって、チームに最も合った練習メニューは何かをじっくりと「瞑想(=深く考える)」する。

ワッツは、知性を磨くことを怠った心を、「雑草やイバラに覆われた、不毛の砂漠」のようだと表現しています 。手入れをしなければ、私たちの心は、偏見や誤解、無知といった雑草で覆い尽くされてしまうのです。

勉強とは、テストで点を取るための作業ではありません。それは、自分の心を豊かに耕し、人生という複雑な問題を乗り越えていくための「生きる力」を養う、壮大なトレーニングなのです。『知性の向上』は、そのための最も信頼できるガイドブックと言えるでしょう。

まとめ:300年の時を超えた「学びのOS」

今回は、壮大な「知性を磨く旅」への出発点として、なぜ今、300年も前の本である『知性の向上』を読む価値があるのかについてお話ししました。

ポイントを振り返ってみましょう。 第一に、この本は、情報洪水のような現代を生き抜くための「航海術」を教えてくれます。情報のうわべに流されず、本質を見抜く力を与えてくれるのです。 第二に、検索すれば答えが手に入る時代だからこそ陥りがちな「知ったかぶり」から脱却し、知識を自分自身の「知恵」に変える方法、つまり「本当の賢さ」を授けてくれます。 そして第三に、「学ぶ」ということは、テストのためだけではなく、友人関係や部活動といった日々の生活、ひいては人生そのものを豊かにするための「生きる力」そのものであることを思い出させてくれます。

時代は変われども、人間が「どのように考え、学び、判断するのか」という根本的な部分は変わりません。『知性の向上』は、いわば時代を超えて通用する「学びのOS」のようなもの。このOSを自分の頭にインストールすることで、私たちは日々の勉強や経験から、より多くのことを、より深く吸収できるようになるのです。

壮大な話になりましたが、最初の一歩はとてもシンプルです。最後に、明日からすぐに実践できるアクションプランを一つ提案します。

【明日からできるアクションプラン】 今日一日、ニュースやSNSで目にした情報の中から一つだけ選び、「これって、なぜなんだろう?」と声に出して問いかけてみましょう。そして、5分だけでいいので、その背景を少しだけ調べてみてください。

例えば、「なぜ、近所のコンビニが閉店するんだろう?」「なぜ、このゲームはこんなに人気があるんだろう?」、何でも構いません。この小さな「なぜ?」こそが、あなたの知性を向上させる旅の、記念すべき第一歩となるはずです。

次回からは、いよいよ『知性の向上』の具体的な中身に入っていきます。お楽しみに!

Comments

No comments yet. Why don’t you start the discussion?

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です