第2回 観察力を鍛えよう(1):すべての学びは「見る」ことから始まる

皆さん、こんにちは!

さて、毎日の通学路、皆さんはどんな風に過ごしていますか? 音楽を聴きながら、友達とおしゃべりしながら、あるいはスマホの画面に集中しながら…。「昨日、通学路で何を見た?」と聞かれて、すぐに答えられる人は意外と少ないかもしれませんね。同じ道を毎日通っているはずなのに、その景色はまるでBGMのように、意識をすり抜けていってしまう。

もし、その「見慣れた退屈な風景」が、ある瞬間から、毎日新しい発見があるエキサイティングな冒険のフィールドに変わるとしたら、どうでしょう?

実はそれこそが、300年前にアイザック・ワッツが説いた「知性を向上させるための5つの方法」の、最も重要で、すべての基本となる第一歩、「観察」の力なのです。ワッツによれば、「観察」とは、人間生活におけるあらゆる出来事を認識することであり、すべての知識の基礎を築くものだとされています

今回の記事では、この「観察」という最強の学習ツールを、皆さんが明日からすぐに使いこなせるようになるためのヒントをお話しします。この記事を読み終える頃には、いつもの通学路が、あなただけの学びの宝庫に変わっているはずです。

「見る」と「観察する」の大きな違い

まず、皆さんに知っておいてほしいのは、「ただ目に入ってくる」ことと、「意識して観察する」ことの間には、天と地ほどの差があるということです。私たちは普段、この二つを無意識に混同してしまっています。

「見る(Seeing)」というのは、いわば受動的な行為です。ぼーっと道を歩いている時、景色は勝手に目の中に飛び込んできます。しかし、その情報は脳に記録されることなく、次から次へと流れていってしまいます。例えば、スマホで動画を見ながら歩いている時、目の前の電柱に気づかずぶつかりそうになった経験はありませんか? この時、あなたの目は確かに電柱を「見て」いますが、意識はそこに向いていないため、脳はそれを「認識」していないのです。

一方で、ワッツが言う「観察(Observation)」は、全く逆です。これは、自分の意志で、意識を特定の対象に向け、情報を能動的に集めようとする行為です。そのエンジニアとなるのが、「あれは何だろう?」「なぜこうなっているんだろう?」という、人間が生まれつき持っている「好奇心」です。ワッツは、特に若い時期の建設的な好奇心を育て、満足させてあげることが非常に重要だと説いています

具体的な例を挙げてみましょう。 あなたの通学路の脇にある、コンクリートの割れ目から、小さな黄色い花が咲いているとします。 もしあなたが、ただ道を「見て」いるだけなら、「あ、花だ」と思って1秒後には忘れてしまうでしょう。あるいは、気づきもしないかもしれません。

しかし、もしあなたが「観察」のスイッチを入れたら、どうなるでしょうか。 まず、あなたはその場に少し立ち止まり、その花に意識を集中させます。すると、次から次へと疑問が湧き上がってくるはずです。 「この花、なんていう名前なんだろう?タンポポに似てるけど、ちょっと違うな…」 「昨日までは咲いていなかった気がする。いつの間に咲いたんだろう?」 「なぜ、こんな硬いアスファルトの隙間から、芽を出して花を咲かせることができたんだろう?」 「周りには土もあまりないのに、どうやって栄養を摂っているんだろう?」 「よく見ると、小さなアリが花びらの上を歩いている。蜜を吸いに来たのかな?」

ほら、たった一輪の花から、これだけの「問い」が生まれました。これが、「見る」と「観察する」の決定的な違いです。ただの風景だったものが、あなたの好奇心によって、生物学や物理学の入り口に立つ、魅力的な謎に変わった瞬間です。ワッツの言う学びとは、この小さな気づきと問いから始まるのです。

通学路が「生きた教科書」に変わる瞬間

「観察」という意識のチャンネルを持つと、いつもの通学路は、学校で学ぶ様々な教科とつながる「生きた教科書」へと姿を変えます。ワッツは、観察の対象を「人間生活におけるあらゆる出来事」だと非常に広く捉えています 。彼の考え方に従えば、私たちの日常は文字通り、学びのネタで満ち溢れているのです。

あなたの通学路を、教科書を開くような気持ちで歩いてみましょう。

  • 理科のページを開くと… 空を見上げれば、そこは壮大な気象学の実験室です。「今日の雲は、薄くて刷毛で描いたような形をしているな。これは巻雲(けんうん)だから、天気は崩れないだろう」とか、「西の空が真っ赤に焼けている。明日は晴れるサインだ」といった予測が立てられます。季節ごとに道端の植物がどう変化していくかを定点観測すれば、それは立派な生物学の研究になります。春にはツクシが顔を出し、夏にはセミが鳴き、秋にはイチョウが黄色く色づき、冬には葉を落とす。なぜそうなるのか、そのメカニズムを考えれば、学びはさらに深まります。
  • 社会のページを開くと… 街の様子は、経済や政治、歴史を映し出す鏡です。「駅前に新しいタワーマンションの建設現場ができた。この街の人口は増えているのかな?」と考えれば、それは都市開発や経済の観察です。商店街を歩いて、「シャッターが閉まっている店が増えたな。一方で、新しいカフェがおしゃれな若者で賑わっている」と気づけば、そこから地域経済の構造変化が見えてきます。選挙の時期になれば、ずらりと並んだポスターの表情やキャッチコピーを比較するのも面白いでしょう。「この候補者は『子育て支援』を強調しているな」「こっちは『高齢者福祉』だ」。それぞれの主張から、現代社会が抱える課題を垣間見ることができます。
  • 美術や数学のページを開くと… 意識すれば、街はデザインと幾何学で溢れています。あるお店の看板のロゴタイプ、ショーウィンドウのディスプレイ、公園のベンチの形。なぜその色、その形が選ばれたのかを考えてみれば、デザインの意図を読み解くトレーニングになります。マンホールの蓋に刻まれた模様の対称性や、建物の窓の配置に見られる規則性など、日常の中には数学的な美が隠されています。

そして何より、通学路は最高の「人間観察」の舞台です。バスを待つ人々の列、公園で遊ぶ親子、足早に会社へ向かう人々。彼らがどんな表情で、どんな服装で、どんな行動をしているのかを注意深く見て、その背景にある人生を想像してみる。これこそが、ワッツが言う「人間生活におけるあらゆる出来事を認識すること」 であり、他者への共感や社会への理解を深めるための、最も基本的なレッスンなのです。

観察を「知識」に変えるための小さな習慣

さて、「観察」の面白さが少しわかってきたところで、次のステップに進みましょう。観察して「へぇ、面白いな」で終わらせてしまっては、少しもったいない。その気づきを、自分の血肉となる確かな「知識」に変えていくためには、いくつかの簡単な習慣を取り入れることが効果的です。ワッツも、珍しい出来事を記録し、後で復習する習慣をつけることを勧めています

  • 1. 「観察メモ」をつける 大げさなものである必要はありません。スマホのメモアプリや、ポケットに入る小さなノートで十分です。通学路で「おや?」と思ったこと、心に引っかかったことを、日付と共に書き留めてみましょう。 「9月23日:駅前のツバメの巣が空っぽになっていた。南に渡ったのかな?」 「9月24日:いつも行列ができているラーメン屋の電気が消えていた。『店主病気のため臨時休業』の貼り紙。心配だ。」 写真や簡単なスケッチを添えるのも良い方法です。こうして記録を続けると、後で読み返した時に、街の変化や自分の興味の移り変わりがわかって面白いですし、何より「忘れない」ための強力なフックになります。
  • 2. 疑問を「調べる」一手間を惜しまない 観察によって生まれた「なぜ?」という疑問は、知識の種です。その種に水を与えるのが、「調べる」という行為です。 道端で見つけた花の名前が気になったら、スマホの画像検索機能や植物図鑑アプリを使って調べてみましょう。名前がわかるだけで、その花に対する親しみがぐっと増すはずです。新しい工事現場が何を作っているのか気になったら、現場の看板に書かれている「建築計画のお知らせ」を見てみるか、自治体のホームページで調べてみれば、答えが見つかるかもしれません。 この「調べる」という一手間をかけることで、あなたの観察は単なる「感想」から、根拠のある「知識」へと進化します。
  • 3. 「決めつけ」という色眼鏡を外す 観察する上で、最も注意しなければならないことの一つが、自分の中にある「偏見」や「思い込み」です。ワッツは、観察を行う心は「情熱や偏見から自由であるべきだ」と明確に述べています 。 例えば、派手な身なりをしている人を見て、「あの人はきっと真面目じゃないだろう」と結論づけてしまうのは、観察ではありません。それは、あなたの価値観という色眼鏡を通して見た、単なる「決めつけ(偏見)」です。 本当の観察とは、決めつける代わりに、問いを立てることです。「なぜ、あの人は毎日あれほど個性的なファッションを楽しんでいるのだろう?」「何か表現したいことがあるのだろうか?」「もしかしたら、ファッション関係の仕事を目指しているのかもしれない」。 このように、自分の判断を一旦保留し、ありのままの事実を見つめ、そこから可能性を探る姿勢こそが、真の観察力を育ててくれるのです。

まとめ:世界を見る「解像度」を上げよう

今回は、アイザック・ワッツが教える学びの第一歩、「観察」について、私たちの最も身近な舞台である「通学路」を例にお話ししました。

今日のポイントを整理しましょう。 第一に、学びの基本は、ただ受動的に「見る」のではなく、好奇心を持って能動的に「観察する」ことから始まります。 第二に、観察のスイッチを入れれば、退屈だった通学路は、理科や社会、美術といった学びと繋がる「生きた教科書」に変わります。 そして第三に、観察したことを「メモ」し、生まれた疑問を「調べ」、そして「決めつけ」という偏見を捨てる、という小さな習慣が、あなたの気づきを本物の知識へと変えてくれます。

ワッツの教えの素晴らしいところは、高価な機材も、特別な才能も必要ないという点です。必要なのは、ほんの少しの好奇心と、世界に注意を向ける意識だけ。それさえあれば、今いる場所が、すぐに学びのフィールドになるのです。

観察力を鍛えることは、世界を見る「解像度」を上げることによく似ています。今までぼんやりとしか見えていなかった世界が、驚くほど鮮明で、豊かで、面白い発見に満ち溢れていることに気づくでしょう。

さあ、あなたも明日から、この知的な冒険を始めてみませんか?

【明日からできるアクションプラン】 明日の朝、家を出る時に、いつもの音楽を聴くイヤホンを外し、スマホをポケットにしまいましょう。そして、通学路で何か一つだけ「昨日まで気づかなかった新しい発見」を探してみてください。それは、小さな花のつぼみでも、お店の新しいポスターでも、何でも構いません。そして、その発見を、学校で友達や先生に話してみてください。

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