第6回 人から学ぶ技術(1):「聞く力」で賢くなる

皆さん、こんにちは!

学校の授業中、先生の話をちゃんと聞いているつもりなのに、なぜか内容が頭に残っていない…。友達との楽しいおしゃべりの後で、「え、そんな話してたっけ?」と内容を忘れてしまっている…。多くの人が、そんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。

私たちは毎日、膨大な量の「言葉」を耳にしています。しかし、その言葉がただ右耳から左耳へと通り抜けていくだけなら、それはBGMを聞いているのと同じです。実は、「聞く」という行為は、私たちが思っている以上に、奥が深く、知的なスキルを必要とする活動なのです。

300年前に生きたアイザック・ワッツは、知識を得るための優れた方法として、「読書」や「観察」と並んで、「講義(人から教えを聞くこと)」と「会話」の重要性を強調しました 。彼は、ただ漫然と話を聞くのではなく、そこから最大限の知識と知恵を引き出すための技術があることを見抜いていたのです。

今回は、退屈な授業がエキサイティングな学びに、友達との何気ない雑談が知の宝庫に変わる、最強の学習スキル「聞く力」の鍛え方を探っていきましょう。

耳を澄ますだけでは不十分? 「積極的傾聴」へのスイッチ

皆さんは、先生の話を聞くとき、どんな姿勢でいますか? 静かに座り、耳を澄ます。もちろん、それは大切なことです。しかし、ワッツに言わせれば、それだけでは全く不十分です。

彼は、学ぶ者に対して**「継続的かつ注意深く出席し、質問の機会を求め」**ることを要求しています 。これは、ただ物理的にその場にいるだけでなく、精神的にも100%参加し、話の内容に能動的に関わっていく姿勢を意味します。これを現代の言葉で言うと「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」です。

「聞いているフリ」と「本当に聞いている」状態は、外から見ると似ていますが、頭の中では全く違うことが起きています。

例えば、数学の授業で先生が新しい定理について説明している場面を想像してください。

  • 受け身な聞き方(聞いているフリ) あなたの体は教室にありますが、心はここにありません。先生の声は遠いBGMのよう。ノートを取る手は機械的に動いていますが、頭の中では「今日の部活、雨で中止かな…」「昨日のドラマの続きが気になるな…」といった別のことを考えています。これでは、授業が終わる頃には、定理どころか、先生が何を話していたかさえ、ほとんど記憶に残っていないでしょう。
  • 積極的な聞き方(本当に聞いている) あなたは、体を少し前に乗り出し、先生の目を見て話に集中しています。先生が定理を説明する声に合わせて、心の中で「なるほど、そういうことか」「ふむふむ」と相槌を打ちます。先生が例題を解き始めると、「なぜ、ここでこの公式を使うんだろう?」「自分なら、別の方法で解けるかな?」と、頭をフル回転させて授業に「参加」します。もし少しでも疑問が湧けば、「後で先生に質問しよう」と、ノートの隅にメモを取るでしょう。

この違いは、歴然ですよね。積極的傾聴とは、話をただの「情報」として受け取るのではなく、自分の頭の中で意味を考え、既存の知識と結びつけ、疑問を持つという、非常にクリエイティブな作業なのです。ワッツが言う**「注意深く出席」** とは、まさにこの精神的な参加を指しています。このスイッチをONにするだけで、情報の吸収率は劇的に向上し、どんな授業も退屈ではなくなるはずです。

質問は「無知の証明」じゃない、「知性のエンジン」だ

「授業中に質問するのって、なんだか恥ずかしい…」 「こんな基本的なことを聞いたら、みんなにバカだと思われるんじゃないか…」 多くの人が、そう感じて質問をためらってしまいます。しかし、ワッツの教えは、この考えを180度ひっくり返してくれます。

彼は、学ぶ者が**「質問の機会を求め」** 、たとえ相手が先生であっても**「十分な証拠なしにはいかなる意見も受け入れてはならず、思考の自由を維持すべきである」** とまで言っています。これは、彼が「質問」という行為を、単に分からないことを聞くためだけのものとは考えていなかった証拠です。彼にとって質問とは、学びの主体性を証明し、思考を深めるための「知性のエンジン」そのものだったのです。

質問には、大きく分けて二つの素晴らしい力があります。

  • ①自分の理解を「固める」ための質問 これは、自分と対話するための質問です。例えば、理科の実験で先生の説明が少し複雑で分からなかったとします。ここで黙っていると、疑問は疑問のまま残ってしまいます。勇気を出して、「すみません、今の部分で、なぜAの溶液とBの溶液を混ぜる前に、Bを加熱する必要があるのですか?」と聞いてみましょう。この質問は、まずあなた自身の「分からない点」を明確にしてくれます。そして、先生が答えてくれることで、あなたの理解は確かなものになります。さらに、その質問は、同じように疑問に思っていた他のクラスメイトの助けにもなるのです。
  • ②相手の知識を「引き出す」ための質問 これは、相手の世界を探求するための質問です。例えば、あなたがサッカー部で、ドリブルが非常に上手い先輩にコツを聞きたいとします。 「どうしたら、そんなにドリブルが上手くなるんですか?」と漠然と聞いても、「うーん、練習あるのみだよ」という答えしか返ってこないかもしれません。 しかし、あなたが先輩のプレーをよく「観察」した上で、「〇〇先輩のドリブルって、ボールに触る時、足のインサイドとアウトサイドを細かく使い分けているように見えるんですけど、何か意識していることはありますか?」と具体的に質問したらどうでしょう。 先輩はきっと「お、よく見てるな!実は…」と、彼の経験から得た専門的な知識や、彼だけの感覚を、より詳しく話してくれるはずです。ワッツは**「他者を彼らの専門分野の事柄について話させるべきである」** と述べています。良い質問は、相手が持つ知識という宝箱を開けるための、魔法の鍵なのです。

雑談こそ学びの宝庫 – 友達から賢くなる方法

「学び」と聞くと、私たちはつい、先生や教科書、専門家から教わる「縦の関係」を思い浮かべがちです。しかし、ワッツは、友人との「横の関係」、つまり**「会話」**が知性を向上させる上で非常に重要だと考えていました

特に、休み時間や放課後の何気ない「雑談」。一見、勉強とは全く関係ないように思えるこの時間こそ、実は異なる知識が出会い、新しいアイデアが生まれる、最高の学びの場なのです。

ワッツは、たとえ相手が自分より知識が少ないと感じる人であっても**「自分より劣る者からも学ぶことが可能だと信じるべきである」** と説いています。この謙虚な姿勢こそが、雑談を宝の山に変える秘訣です。

例えば、お昼休みに、歴史好きなD君と、最新のスマホゲームに夢中なE君が話しているとします。 D君:「昨日、戦国時代の城について調べてたんだけど、防御のための仕掛けがすごくてさ…」 E君:「へえ。俺がやってるゲームの城も、敵の侵入を防ぐためにトラップを配置するのが重要なんだよね。どのルートから敵が来るかを予測して…」

この会話を聞いていたあなたは、全く違う時代、違う世界の「城」というテーマに、「敵の侵攻ルートを予測し、効果的な防御策を配置する」という共通の戦略的思考、つまり「ゲーム理論」のようなものが存在することに気づきます。 ここであなたが、「そのゲームの戦略って、実際の歴史の戦いでも応用できるのかな?」と一言問いを投げかければ、会話はさらに面白くなります。歴史の知識とゲームの戦略知識が交差し、新しい視点が生まれるかもしれません。

これこそが、ワッツが言う**「アイデアを比較し、知識の隠された宝を明らかにし、思考を刺激」** する会話の力です。友達が夢中になって話す「好きなこと」の中には、その分野の専門知識や、彼ら独自の鋭い視点が詰まっています。その言葉に真剣に耳を傾け、自分の知識と結びつけてみる。その意識を持つだけで、何気ない雑談は、最高の知的トレーニングの場に変わるのです。

まとめ:あなたの耳を「知のアンテナ」に変えよう

今回は、日常のコミュニケーションを知的な学びに変える「聞く力」についてお話ししました。

ポイントを整理しましょう。 第一に、本当の「聞く力」とは、ただ耳に入れるだけの受け身な行為ではなく、頭をフル回転させて話に参加する**「積極的傾聴」であること。 第二に、質問は恥ずかしいことではなく、自分の理解を確かなものにし、相手の深い知識を引き出すための「知性のエンジン」であること。 そして第三に、友達との何気ない雑談**も、意識次第で異なる分野の知識が化学反応を起こす、最高の学びの場になるということ。

アイザック・ワッツの教えは、高価な参考書を買ったり、塾に通ったりしなくても、日々の人との関わりの中で、いくらでも賢くなれる方法があることを示してくれています。あなたの耳を、ただの音の受信機から、世界中の知恵をキャッチする高性能な「アンテナ」に変えてみませんか?

【明日からできるアクションプラン】 明日、何か一つだけ「質問」をしてみましょう。 授業中に勇気を出して手を挙げてみる。もしそれが難しければ、授業が終わった後に先生のところへ行って、「今日の〇〇のところが少し分からなかったので、教えてください」と聞いてみる。あるいは、友達との会話の中で、「それ、面白いね! もう少し詳しく教えて?」と、一歩踏み込んで尋ねてみる。

そのたった一回の質問が、あなたの「聞く力」を目覚めさせ、人とのコミュニケーションを、そして学びを、もっとずっと面白くしてくれるはずです。

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