【企業分析マスター講座 第6回】成長性分析:売上高と利益の伸び率から、企業の未来のポテンシャルを予測する

これまでの講座で、企業の「今」の姿を財務三表や各種指標から読み解く方法をマスターしてきました。しかし、私たち投資家が本当に知りたいのは、その企業の「未来」ではないでしょうか?「この会社の株価は、将来本当に上がってくれるのだろうか?」「今の株価がたとえ高く見えても、未来に何倍にもなるなら買いたい!」

その気持ち、非常によく分かります。株式投資とは、本質的には「企業の未来の価値」に投資する行為です。実は、多くの投資家が企業の「今」の利益や安全性だけを懸命に分析し、その企業の持つ未来の「伸びしろ」=「成長性」を見逃してしまっているのです。その結果、Amazonやテスラのような、未来を大きく変えた企業の株価上昇(テンバガー=10倍株)という、人生を変えるほどの大きなチャンスを逃してしまっています。

しかし、ご安心ください。この記事を読み終える頃には、あなたも決算短信という宝の地図から企業の「成長性」という未来のポテンシャルを読み解き、将来性豊かな企業を自ら見極めるための、重要な第一歩を踏み出せるようになっているでしょう。

本論:成長性分析は「未来の株価」を予測する鍵

理論解説パート:「未来の伸びしろ」を測る2つのモノサシ

なぜ成長性分析が重要なのでしょうか?それは、株価というものが、企業の「未来の利益(=期待)」を織り込んで動くからです。今、どれだけ利益が出ていても、未来に成長が見込めない企業の株価は上がりにくいのです。

この「未来の伸びしろ」を測るために、私たちはまず2つの基本的な指標に注目します。

1. 売上高(営業収益)伸び率

  • 一言でいうと?: 企業の「事業規模」そのものが、どれだけ大きくなっているかを示す指標です。
  • 比喩: あなたが経営するレストランの「来店客数」や「注文の総数」が、昨年と比べてどれだけ増えたか、ということです。これが、全てのビジネスの源泉ですよね。
  • 専門家の視点: まず、ここがしっかりと伸びている(=増収)ことが、成長の大前提です。もし売上が伸びていないのに利益だけが伸びている場合、それはコスト削減(=必死のダイエット)に頼っている可能性があり、その効果は長続きしません。ウォーレン・バフェットのような偉大な長期投資家は、ライバルを寄せ付けない強いブランド力やビジネスモデルを持ち、持続的に「売上」を伸ばし続けられる企業を何よりも好みます。

2. 営業利益伸び率

  • 一言でいうと?: 企業の「本業の稼ぐ力」が、どれだけ強くなっているかを示す指標です。
  • 比喩: あなたのレストランが、単に来店客数が増えただけでなく、客単価を上げたり、調理や接客の効率を上げたりして、「儲け」そのものをどれだけ増やせたか、ということです。
  • 専門家の視点: ここで、プロが必ずチェックする「黄金パターン」があります。それは、**「売上高伸び率 < 営業利益伸び率」**という関係です。
  • これは「売上が伸びた以上に、利益が効率よく増えている」状態を示します。例えば、売上が10%伸びたのに、利益は30%も伸びた、というケースです。これは、事業が軌道に乗り、スケールメリット(規模の経済)や業務効率化が効き始めている「収益性が高まっている」という、非常にポジティブなサインなのです。

この2つの伸び率と、その関係性を見るだけで、企業の未来のポテンシャルが透けて見えてくるのです。

実践分析パート:イオン株式会社の「未来のポテンシャル」を診断する

それでは、イオン株式会社の「未来のポテンシャル」を、この成長性という観点から分析していきましょう。

決算短信から、最新の「成績の伸び」を確認します。

イオン株式会社 連結経営成績(2025年3月1日〜2025年8月31日)

項目2026年2月期中間期前年同期比伸び率
営業収益 (売上)5兆1,899億70百万円 1+3.8% 2
営業利益 (本業の儲け)1,181億29百万円 3+19.8% 4
経常利益1,064億68百万円 5+18.5% 6
親会社株主に帰属する中間純利益40億48百万円 7+9.1% 8

(出典:イオン株式会社 2026年2月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結))

【分析①】出ました!「売上高伸び率 < 営業利益伸び率」の黄金パターン!

この表を見て、すぐに気づくことがありますよね?

売上高が+3.8%と着実に成長しているのに対し、本業の儲けである営業利益は**+19.8%**と、売上を遥かに上回るペースで爆発的に伸びています 9。

これはまさに、先ほど学んだ**「黄金パターン」**です。

この数字が語る物語は、「イオンは、ただ商品を売って規模を大きくしているだけではない。ビジネスの『体質』そのものが変わり、稼ぐ効率が劇的に高まっている」ということです。5兆円という巨大な企業が、これほどの利益成長率の改善を示すのは、並大抵のことではありません。

【分析②】なぜ利益は爆発的に伸びたのか?(その成長は本物か?)

では、なぜこれほど利益が伸びたのでしょうか?その理由が「一時的なもの」であれば、来年は期待できません。しかし、決算短信を読み解くと、こんな素晴らしい言葉が並んでいます。

「DX推進による店舗業務の効率化や経費構造改革の進展」 10「前年同期から大幅に損益が改善したGMS(総合スーパー)事業のほか、(中略)SM(スーパーマーケット)事業、ヘルス&ウエルネス事業、ディベロッパー事業、サービス・専門店事業の貢献」 11

これは、一過性のコストカット(ダイエット)によるものではなく、イオンの長年の経営課題であったGMS(総合スーパー)事業の収益構造が、DX(デジタルトランスフォーメーション)という「本質的な改革」によって、ついに改善し始めたことを意味しています。

これは、一度効率化された仕組みが今後も利益を生み続ける可能性が高い、つまり**「持続可能性の高い成長」**であることを示唆しています。これは投資家にとって、未来を予測する上で非常にポジティブなシグナルだと言えるでしょう。

【分析③】純利益の伸び(+9.1%)が低いのはなぜ?

ここで、「でも、最終的な純利益の伸びは+9.1%と、営業利益(+19.8%)より低いじゃないか?」と気づいた方は、素晴らしいです。

これは第1回や第4回でも触れましたが、「総合金融事業における事業ポートフォリオ見直しに伴う特別損失の発生等」 12 という「一時的な痛み」が原因です。

私たちが企業の未来のポテンシャル、つまり「本業の成長性」を見るときは、この一時的な損失を除いた**「営業利益の伸び(+19.8%)」** 13 の方をより重視します。本業が力強く成長しているという事実こそが、未来の株価の源泉となるのです。

まとめ:今日からあなたも「未来のポテンシャル」を見抜ける

本日の冒険で、企業の「今」だけでなく「未来の伸びしろ」を測る、強力な分析手法を手に入れることができました。この成長性の視点を持つだけで、あなたの企業選びの精度は格段に向上するはずです。

【本日の冒険のまとめ】

  • 企業の「未来のポテンシャル」は「成長性分析」で測る。株価は未来の期待で動く。
  • 「売上高伸び率(事業規模の拡大)」と「営業利益伸び率(稼ぐ力の強化)」をセットで見る。
  • イオンは「売上高伸び率 +3.8% < 営業利益伸び率 +19.8%」 14という黄金パターンを示現。これはDX推進やGMS事業の構造改革 15 という「本質的な体質改善」によるものであり、持続的な成長が期待できるポジティブなサインである。

それでは、恒例の「ベビーステップ」です。今日の課題もとても簡単ですよ。

【本日の課題】あなたがいつも行くスーパーや、よく利用する飲食店の会社の名前で、「〇〇株式会社 営業利益 伸び率」と検索してみるだけです。その会社が今、どれくらいの勢いで成長しているのか、数字で確認してみましょう!

その数字が、あなたの日常の風景を少し変えてくれるかもしれません。

投資判断

イオン株式会社への投資判断は、これまでの「7/10」から**「8/10」に引き上げます**。

これまでの財務三表の分析(過去〜現在)で健全性を確認できたことに加え、今回の成長性分析(未来)において、「GMS事業の損益改善」と「DXによる効率化」という、**長年の経営課題が解決に向かい、収益構造が抜本的に変わる「転換点」**にいる可能性が強く示唆されたからです。本業の稼ぐ力が持続的に向上していくならば、企業の価値は再評価され、将来の株価上昇に繋がる可能性が高いと判断します。

次回予告

しかし、これまでの分析は全て「数字(財務分析)」だけを見てきました。この成長が「本物」なのか、ライバル企業と比べて本当に強いのかは、数字だけでは分かりません。

そして、私たち投資家にとって最も重要な問いが残っています。「この素晴らしい成長性を、今の株価はすでに織り込んで『割高』になってはいないか?」

どれだけ素晴らしい企業でも、高すぎる価格で買ってしまっては利益は出ません。

次回、【株価の割安性分析】PERとPBRは万能か?指標の正しい使い方と注意点。ついに、企業の価値と「株価」を直接対話させる、投資判断の核心に迫ります。お楽しみに。


免責事項

本記事は、企業分析に関する情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。株式投資は、元本を割り込むリスクを伴います。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、筆者および関係者は一切の責任を負いません。

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