第23回 思考の器を広げるには? – 複雑な問題も整理できる「広い心」の作り方

皆さん、こんにちは!

地球温暖化の問題、将来の進路の悩み、複雑な人間関係、受験勉強の膨大な範囲…。私たちの周りには、あまりにも多くの情報や、あまりにも複雑な問題が溢れています。「もう、頭がパンクしそう!」「考えることが多すぎて、何から手をつければいいか分からない!」と、思考がフリーズしてしまう。そんな経験はありませんか?

それは、あなたの頭が悪いからではありません。ただ、あなたの「思考の器」が、その問題の大きさに、まだ追いついていないだけなのです。

300年前に生きたアイザック・ワッツは、この「思考の器」、すなわち**「精神の能力(キャパシティ)」**を意図的に「拡大」することができる、と説いています 。今回は、どんなに複雑な問題に直面しても、冷静に情報を整理し、正しい判断を下せる「広い心」の作り方を探っていきましょう。

「器が広い」とは、どういう状態か?

まず、ワッツが言う「精神の能力が広い」とは、どういう状態でしょうか。それは、ただ知識をたくさん詰め込んでいる(物知り)ということではありません。それは、知識の**「扱い方」**が上手い、しなやかで強靭な精神状態のことです。ワッツによれば、その特徴は3つあります

  1. 「大きな思想」に耐えられる 「宇宙の果てはどうなっているんだろう?」「『無限』って何だろう?」といった、途方もなく「偉大で崇高な思想」に触れた時、思考停止するのではなく、それを苦痛なく受け入れ、考え続けられる力 。
  2. 「新しい思想」を拒絶しない 自分の常識と違う、「新しく奇妙なアイデア」に出会った時、証拠さえしっかりしていれば、驚きや嫌悪感なく、柔軟に受け入れられる自由さ 。(第16回・第17回の「独断」や「間違いを認める勇気」にも通じますね)
  3. 「たくさんの思想」を同時に扱える そして最も重要なのがこれです。「多くのアイデアを一度に混乱なく認識し、その広範な概観から正しい判断を形成する能力」 。 複雑な問題とは、まさにこの「多くのアイデア」が絡み合った状態です。Aという意見も、Bという意見も、Cという事情も、Dという可能性も、すべてを同時に頭の中に並べ、パニックにならずに全体像を把握し、最適な答えを導き出せる力。これこそが、「思考の器が広い」ことの核心です。

「思考の器」を広げる4つの筋トレ

では、この強力な「思考の器」は、どうすれば鍛えられるのでしょうか。ワッツは、精神の能力を増大させるための、具体的なトレーニング方法を示しています

  1. 「明確なアイデア」を心がける(整理整頓の筋トレ) ワッツは、**「物事において明確で明確なアイデアを形成することに慣れる」**ことが重要だと言います 。 これは、思考の整理整頓です。ごちゃごちゃした服(曖昧なアイデア)をそのままクローゼット(脳)に詰め込むから、すぐにパンクするのです。一つひとつの知識に対し、「それって、要するにどういうこと?」と問いかけ、輪郭のはっきりした「明確なアイデア」にしてから棚にしまう習慣 。これが、器のスペースを有効活用する第一歩です。
  2. 「アイデアの貯蔵庫」を日々、増やす(インプットの筋トレ) 当然ですが、広い器も、中身が空っぽでは意味がありません。ワッツは**「豊富なアイデアの貯蔵庫を獲得するために勤勉を用いる」**ことを勧めています 。 ここで、第1部で学んだ学習サイクルが活きてきます。「観察」「読書」「会話」などを通じて、質の良いアイデアを毎日コツコツと仕入れる 。たくさんのアイデア(点)を持っていればいるほど、それらをつなぎ合わせて「概観(面)」を描くことが容易になります。
  3. 「規則的な順序」で整理する(整頓の筋トレ) 仕入れたアイデアは、ただ放り込むだけではダメです。ワッツは、**「毎日新しいアイデアを規則的な順序で整理して貯蔵する」こと 、そして「規則的で漸進的な方法を遵守する」**こと を強調します。 これは、第9回で学んだ「マインドマップ」や、第15回の「学習ログ」に通じます。知識を「関連付け」し、「体系化」して整理する。この習慣が、脳内に整然とした棚を作り、多くの情報を混乱なく取り扱えるようにするのです 。
  4. あえて「複雑な問題」に挑む(負荷の筋トレ) そして最後は、最も直接的なトレーニングです。ワッツは、「複雑な問題を熟読し解決すること」 が、精神の能力を増大させると言います 。 軽いダンベルばかり持ち上げていても、筋肉は大きくなりません。それと同じで、思考の器も、簡単な問題ばかり解いていては広がりません。 あえて、すぐに答えの出ない複雑なニュースについて考えてみる。数学の難問に、答えを見ずに30分間粘ってみる 。この「脳が汗をかく」ような**「注意深く忍耐強い精神状態」**を養う努力 こそが、あなたの器の限界を、少しずつ押し広げてくれるのです。

まとめ:あなたの「脳の容量」は、鍛えられる

今回は、複雑な問題にもパニックにならず対処できる、「思考の器」を広げる方法についてお話ししました。

ポイントを振り返ってみましょう。 第一に、「思考の器が広い」とは、単に物知りなのではなく、大きく、新しく、たくさんのアイデアを、混乱せずに扱える精神の能力のことです 。 第二に、その器は生まれつき決まっているのではなく、日々のトレーニングで後天的に「拡大」できるものです。 そして第三に、そのトレーニングとは、**①アイデアを明確にし 、②インプットを増やし 、③規則的に整理し 、④あえて複雑な問題に挑む **という、地道な努力の積み重ねなのです。

あなたの脳のキャパシティは、まだ始まったばかり。ワッツの知恵を借りて、どんな問題でもどんと来い、と言えるような、広大でしなやかな「思考の器」を育てていきましょう。

【明日からできるアクションプラン】 今、あなたが一番「複雑で、考えるのが面倒だ」と思っている問題を一つ、紙に書き出してみてください。(例:「受験勉強」「部活と勉強の両立」「環境問題」など)。 そして、その問題を「解決」しようとするのではなく、ただ「それに関連するアイデアや事実」を、思いつくままに10個、書き出してみましょう。 これは、ワッツが言う「多くのアイデアを一度に混乱なく認識する」ための、最初のトレーニングです。

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