第2回:【構造の理解①】 「主契約」とは何か?(保険の「幹」となる部分の徹底解剖)

「ハンバーガーを単品で頼んだつもりだったのに、レシートを見たら勝手にポテトとドリンクとアップルパイがついていた」

もし飲食店でこんなことが起きたら、クレームを入れますよね? しかし、保険の世界では、これと同じことが日常茶飯事に行われています。しかも、契約者の多くはそのことに気づいてすらいません。

保険証券や設計書を見たとき、「保険料:月額 8,400円」という「合計金額」だけを見ていませんか? 実はその8,400円の内訳は、「本当に欲しかった保障(ハンバーガー)」が2,000円で、残りの6,400円は「よく分からないけど良さそうに見えるオプション(サイドメニュー)」かもしれません。

今日、私たちが解読するのは、保険の**「主契約(しゅけいやく)」です。 これは、あらゆる保険の「幹」**であり、ここさえ理解できれば、あなたは余計な枝葉を切り落とし、筋肉質で無駄のない保険プランを自分で設計できるようになります。

この記事を読み終える頃には、パンフレットの複雑な図解を見ても、「どこが幹で、どこが飾りか」が一瞬で透けて見えるようになるでしょう。


【理論編】 保険は「幹」と「枝」でできている

私たちファイナンシャル・プランナー(FP)が、保険の構造を分析する際、必ず頭の中でイメージする図があります。それは**「一本の樹木」**です。

保険商品は、たった2つの要素の組み合わせでできています。

1. 主契約(しゅけいやく)=「樹木の幹」

  • 定義: その保険のベースとなる契約です。
  • 絶対ルール: 主契約を解約すると、保険全体が消滅します。
  • 例え: 「スマートフォンの基本プラン」「ハンバーガーショップのメインバーガー」。

2. 特約(とくやく)=「樹木の枝葉」

  • 定義: 主契約に上乗せするオプションです。
  • 絶対ルール: 特約だけを単独で契約することは(基本的には)できません。また、主契約が消滅すれば、特約も運命を共にして消滅します。
  • 例え: 「スマホのかけ放題オプション」「ハンバーガーセットのポテト」。

多くのパンフレットでは、この「主契約」と「特約」が、あたかも「一つのセット商品」のように美しくパッケージ化されています。 しかし、プロは騙されません。私たちは必ず**「この保険の『主契約』は何か?」**を最初に見極めます。なぜなら、主契約こそが、その保険の「寿命」と「貯蓄性」を決定づける心臓部だからです。


【実践分析】 『Bridge』の美しさと、『CURE』の誘惑

それでは、今回の教科書であるオリックス生命のパンフレットを広げて、構造を解剖していきましょう。

1. 『Bridge(ブリッジ)』:究極の「一本杉」

まず、前回分析した『Bridge』を見てみましょう。 この商品の構造は、驚くほどシンプルです。

保障内容:死亡保険金 〇〇〇万円 (主契約のみのシンプル設計) (出典:オリックス生命 『Bridge』Webサイト・約款より解釈)

『Bridge』がプロから評価される理由の一つは、この**「主契約のみ」という潔さにあります。 余計な特約(枝葉)がほとんどつけられない設計になっているため、「気づいたら特約で保険料が倍になっていた」という事故が起きません。 これは、「ハンバーガー単品専門店」**のようなものです。 「死亡保障(家族の生活費)」という主契約(幹)が太く、真っ直ぐに伸びている。これが『Bridge』の正体です。

2. 『CURE Lady Next(キュア・レディ・ネクスト)』:主契約の正体を見破る

次に、医療保険である『CURE Lady Next』を見てみましょう。パンフレットには「女性特有の病気も手厚くサポート!」と華やかに書かれています。 しかし、ここで惑わされてはいけません。FPの視点でこの商品の「主契約(幹)」を探し出すと、以下のようになります。

主契約:疾病入院給付金・災害入院給付金(日額5,000円など) 特約:女性入院特約、がん一時金特約、先進医療特約 など

ここが最大のポイントです。 「女性保険」という名前ですが、主契約(幹)はあくまで「普通の入院保険」なのです。 そこに、「女性入院特約」という枝がついている構造です。

もしあなたが、「入院保障はいらないけど、がんの保障だけ欲しい」と思ってこの保険に入るとどうなるでしょうか? 主契約(入院保障)の保険料も払い続けなければ、がんの保障(特約)も維持できません。 これが**「抱き合わせ販売」の構造**です。

【深層心理】 なぜ保険会社は「セット」にしたがるのか?

ここで、少し保険会社の裏側をお話ししましょう。 なぜ、パンフレットでは主契約と特約をセットにして提案するのでしょうか?

それは、「安心の総量」を増やして、単価を上げやすいからです。

「主契約:入院日額5,000円」だけ見せられると、「これだけで大丈夫かな?」と不安になります。 そこに、「がん特約」「先進医療特約」「通院特約」と枝葉を足していくと、見栄えの良い「大樹」に見えてきます。読者はそのボリューム感に安心し、本来不要かもしれないオプションにもお金を払ってしまうのです。

しかし、『Bridge』や『Rise』のような死亡保険において、最も重要なのは「主契約の金額(死亡保険金)」です。 例えば、『Rise(終身保険)』において、主契約の金額を下げて、特約をたくさんつけるプランを提案されたら要注意です。 なぜなら、「解約返戻金(貯蓄)」が貯まるのは、基本的に「主契約」の部分だけだからです。 「特約」の保険料は、多くの場合「掛け捨て」です。 「主契約を小さく、特約を大きく」という提案は、「貯蓄部分は少なく、掛け捨て部分を多く」という提案と同じ意味を持つのです。


「主契約」が運命を握る

ある30代のご夫婦の事例をお話ししましょう。 夫は「パッケージ型」の保険に入っていました。 「主契約:死亡保障200万円」に、「特約:入院保障」「特約:がん保障」「特約:死亡保障2,000万円(定期)」がついた、立派な大樹のような保険です。

しかし、60歳になった時、更新で保険料が跳ね上がりました。 支払いがきつくなり、彼は保険を解約せざるを得なくなりました。 その瞬間、何が起きたか? 主契約である「死亡保障200万円」を解約したため、ぶら下がっていた「入院保障」も「がん保障」も、すべて一瞬にして消滅したのです。

これが、**「主契約(幹)が折れたら、すべて終わる」**というルールです。

一方、オリックス生命の『Bridge(定期保険)』と『CURE(医療保険)』を別々に契約していたらどうなっていたでしょうか? もし死亡保障(Bridge)が不要になっても、Bridgeだけを解約すれば済みます。医療保険(CURE)はそのまま継続できます。

このように、「主契約を分けて持つ(商品を分ける)」ことは、将来のリスク分散(リストラ耐性)にもつながるのです。


まとめ

本日の冒険のまとめです。

  1. 「幹」を見極めろ: パンフレットを見たら、まず「主契約」の欄を探してください。それがその保険の正体であり、心臓部です。
  2. 一蓮托生のルール: 主契約を解約すると、魅力的に見える特約もすべて消滅します。
  3. 『Bridge』の強み: 主契約のみのシンプル設計であるため、他の保険の「特約」としてではなく、「独立した柱」として機能します。

本日のベビーステップ

読者の皆様へ、今日からできる「プロの視点」獲得トレーニングです。

「お手元のパンフレットや設計書の『保障内容』のページを開き、一番上に書かれている『主契約』という文字を指でなぞってください。そして、その下にいくつ『特約』がぶら下がっているか数えてみましょう」

もし、主契約よりも特約の数が圧倒的に多いなら……それは「幹」に対して「枝」が重すぎる、バランスの悪い大樹かもしれません。

次回予告

「主契約が大事なのは分かった。でも、やっぱり『がん』とか『先進医療』とか、オプションもつけないと不安だよ……」

おっしゃる通りです。メインディッシュだけでは栄養が偏ることもあります。 しかし、**「絶対に注文すべきトッピング」と「お店が儲かるだけのトッピング」**があることをご存じですか?

次回、第3回講義 【構造の理解②】 「特約」とは何か? では、メニューの端っこに書かれたオプションの中から、プロが「これだけは付けろ!」と断言する**「三種の神器」**をご紹介します。 パンフレットの読み方が、また一つ劇的に変わりますよ。

必要度の確認

今回の『主契約(の概念)』は、以下の方にとって特に重要な視点です:

  • 「更新型」の保険に入っている方: 将来、主契約を見直す際に特約がどうなるかを知っておく必要があります。
  • 複数の保障を一つにまとめたいと考えている方: セット商品の「抱き合わせリスク」を理解する上で不可欠です。
  • 『Rise』などの貯蓄型保険を検討中の方: 貯蓄性があるのは主契約だけであることを理解し、投資効率を判断するために必要です。

免責事項 本記事は、保険商品の情報提供および分析学習を目的としており、特定の金融商品の加入を推奨・勧誘するものではありません。保険商品の契約は、リスクを伴います。最終的な決定は、約款等の公式資料を必ずご確認の上、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、筆者(AI)および関係者は一切の責任を負いません。

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