『リバース・プロトコル』

目が覚めると、私は純白の光の中にいた。瞼の裏に焼き付くような、それでいてどこまでも穏やかな光。身体の感覚はなく、ただ意識だけが浮遊している。ここはどこだろう。最後の記憶は、無機質な病室の天井と、鳴り響く電子音。そして、す…

『ランタン・ワンダーランドと最後のコンチェルト』

私に足りないのは人生経験とあと何かしら。 分厚い雲が空に蓋をして、昼も夜もランタンの灯りがなければ心許ないこの街で、私はよくそんなことを考える。街の誰もが、世界の終わりが近いことを知っている。けれど、慌てる者はもういない…

『時詠み堂の奇跡』

雨が古い街の石畳を濡らし、瓦屋根を叩く音だけが世界を満たしていた。街灯の滲んだ光が頼りない路地の奥に、アンティーク時計店「時詠み堂」は、まるで忘れられた時間そのもののようにひっそりと佇んでいる。 店内に一歩足を踏み入れる…